「敏正さまは、朝はあまりお召し上がりになりませんので、品数も少なくて。えぇっと、私は春江と申しますが……」
「申し訳ありません。三谷郁子と申します」


改めて腰を折ると、「あぁっ、頭を上げてください」と慌てている。


「三谷さまがいらっしゃるとわかっていれば、もう少し準備したのですが」

「私は突然お邪魔したんですし、なくても平気ですよ。それと、郁子で十分です」

「それでは郁子さま。なくてもいいだなんてとんでもない。それに一橋(ひとつばし)さまがお越しになるときもあるので、余分に作るのですよ。お口に合えばぜひ召し上がってください。敏正さまからも用意するようにと申しつけられていますし」


まさか、遊女に身を落とす寸前だった私に、これほど親切にしてもらえるとは。


「ありがとうございます。それでは遠慮なく。……あの、一橋さまというのは?」