かまどの火はすでに消えていて、おいしそうな味噌汁のにおいが充満している。


「あ……」


背後で女性の声がして振り向くと、四十代くらいのふくよかな女性が私を見つめてぱちぱちと二度瞬きした。

春江さんかしら。


「すみません。素敵な家だったのでつい見入っておりました」
「いえ。敏正さまは奥座敷にいらっしゃいますよ。ご案内します」


春江さんは踵を返したが「待って」と止める。


「なんでしょう?」
「このお料理、運ばれるんですよね。ついでに持っていきましょう」
「客人にそのようなことはさせられません」


春江さんは激しく首を振っているものの、私は津田さまに助けてもらった身分。
決して客ではない。


「気にしないでください。お手伝いします」
「はぁ……」


困った様子の春江さんだったが、私が「お椀はどちらに?」と尋ねるとテキパキと動きだした。