「旦那、着きましたよ」


車夫が足を止めて津田さまに声をかけたのは、立派な二階建ての日本家屋の前だった。
瓦葺の切妻屋根の棟門の向こうには大きな松が見える。


「あぁ、ありがとう」


車夫に料金を支払った津田さまは、先に降りて私にスッと手を差し出す。
女性の扱いに慣れているのは、やはり上流階級で育ったから?


「こちらは?」
「津田家の別宅でね。今は俺が使っている」


〝私〟から〝俺〟になったのに気づいたけれど、特に指摘はしなかった。
単に他に誰もいなくなって素が出たに違いない。


「津田家……」


このような大きな別宅を構えられるほど立派な家の人なのだろうか。

津田さまは門の戸を開けて入っていく。
すると、和風建築のお屋敷の二階には簀子(すのこ)縁が見える。