「あんな大金、大丈夫なんですか?さっき、うしろにいらっしゃった方は……」


矢継ぎ早に質問している途中で、グゥーと腹が鳴り、「安心してまずは食え」と笑われた。

優しい笑い方をする人なのね。

大門から出てきたときの感情をなくしたような冷めた表情とは違い、頬を緩める彼に安堵して、あんぱんをパクリと大きな口で頬張った。

大きめのあんぱんをすべて胃の中に収めた頃、東の空から完全に太陽が顔を出してまぶしいほどに私たちを照らしだした。

津田さまに引き止められなければ、今頃妓楼で値踏みされていたんだわ。

覚悟を決めて吉原に向かったつもりだったのに、今さら震える。

なぜ助けてくれたのか聞きたかったが、彼は私があんぱんを食べている間に目を閉じて眠っているようだった。

妓楼ではお眠りにならなかったのかしら。
朝まで同衾(どうきん)していたから?

そんなことを考えて小さな溜息をついた。