車夫ができたてのあんぱんを買って戻ると、津田さまはそれを私に持たせる。


「あの……」
「顔色が悪い。飯がのどを通らなかったのではないか?」


その通りだ。
五千圓近い借金が発覚してその取り立てが続き、ろくに食事をとっていなかったところに、女衒が現れてあれよあれよという間に私の身売りが決まった。

無論、遊女に身を落とすと決まって食欲が湧くわけもなく、昨日はなにも口にしていない。


「私のために?」
「店が開いていないから、あんぱんで我慢しなさい。あとでもう少しうまいものを用意しよう」


うまいものを用意って、どこに連れていくつもり?


「これからどちらに?」
「とりあえず、私の家に。子爵令嬢が女衒と一緒だった理由に興味がある。私は郁子を買ったのだから、聞く権利はあるだろう?」


もちろん、権利はあるけれど……。