そう言って晴斗が差し出したのは小さな紙袋だった。開けてもいいのだろうか。確認するように晴斗を見ると笑顔のまま頷いていた。
 そっと袋を開けると中にはメッセージカードと小さな箱が入っている。メッセージカードには。

「『ハッピーバースデー美桜』……」
「美桜って、君のこと、だよね」
「は……い」

 涙を必死に堪えると、中に入っていた箱を開けた。そこにはあの日敦斗が見つめていたのとよく似た時計のついたキーホルダーがあった。

「時計を人に贈る意味は」

 美桜が取り出したそれを見て敬一は口を開く。

「『一緒の時間を過ごそう』。それから『離れていても同じ時を過ごそう』っていう意味が込められているらしい」
「詳しいね。最近、時計贈った?」
「うるせえ」

 敬一と晴斗はじゃれ合うように言っていたけれど、美桜の耳に届くことはなかった。『一緒の時間を過ごそう』『離れていてもずっと一緒だよ』それはまるで敦斗から美桜へのメッセージのようで。

「敦斗のくせに、ロマンティックだね」
「うん……ホントに……っ……」

 美桜は時計をぎゅっと抱きしめると、静香に涙を流した。


 その日の夜、美桜は自分の部屋にいた。久しぶりに帰ってきたからと敬一は泊まっていくらしく敦斗が過ごしていた部屋で眠っている。
 美桜はスマホを取り出すと敦斗にもらったキーホルダーを付けた。もう二度と一緒の時間を過ごすことはできないけれど、それでもずっと一緒にいるよとの想いを込めて。
 それから――。

「この時計が刻む時を、私は一人でも歩くよ」

 敦斗はもういないけれど、それでも。

「敦斗がくれたたくさんの思い出と、それから巡り合わせてくれた出会いとともに生きていく」

 そう。君が好きだと言ってくれた、笑顔のままで。

 完