敦斗は天を仰ぐ。つられて美桜も空を見上げる。どこかの工場の煙が空高く昇っていくのが見えた。それがいつかの出来事を思い出させる。違う、あれは工場の煙で火葬場の煙ではない。そう思えば思うほど胸の奥が苦しくなる。もしかしたら敦斗も今、同じことを思い出しているのかも知れない。沸き上がってくる思いを押し殺すと、美桜は淡々と言葉を重ねた。
「それでこれからどうするの?」
「うーん、考えたんだけどやっぱりこれってさよくある未練が残ってるせいで成仏できないってやつだと思うんだよ」
「そんなあっけらかんという奴にどんな未練があるっていうの」
「あ、失礼だな。俺にだって未練の一つや二つ」
「例えば?」
「漫画の最終巻読みたかったなぁとか今月の学食の月替わり定食食べそびれたなとか」
あまりにもしょうもない未練に美桜は話途中の敦斗を放って歩き出す。そんな美桜を敦斗は慌てて追いかけてきた。五月だというのに日差しが厳しく、衣替え前の長袖のブレザーでは蒸し暑く感じる。早く家に帰って制服を脱いでしまいたかった。足早になる美桜を慌てて敦斗は追いかけてくる。
「お、おい。冗談だって」
「冗談でもなんでもいいんだけど、そもそも私には関係ないんだからついてこないでよ」
「そんなこと言わないで! 頼む! 美桜しか頼めるやついないんだ! このまま俺が成仏できずに悪霊にでもなったらお前だって目覚め悪いだろ?」
目覚めが悪いかどうかは置いておいて、美桜しか頼める人がいない、というのはたしかにそうなのだろう。葬式の間も、そして今こうやって歩いているときも、誰一人として敦斗へ視線を向ける人はいなかった。まるでそこに誰もいないかのように振る舞われるそれがどれだけ辛いのか、美桜は身をもって知っていた。その身に望んでなった美桜と、望まずになってしまった敦斗では雲泥の差だろうが。
「未練が解消されたらすぐにいなくなるから!」
「いなくなるったってどうやって」
「わっかんないけど、なんとなく感じるんだよ。色々と。例えばこうやっていられるのはあと四十六日だけだってこととか」
「四十六? 何その中途半端な日数」
美桜は敦斗の言葉に首をかしげた。一週間とか十日とかそういう区切りのいい数字じゃなくて四十六というよくわからない数字が腑に落ちなかった。けれど敦斗はさも当然とでも言うかのように言った。
「それでこれからどうするの?」
「うーん、考えたんだけどやっぱりこれってさよくある未練が残ってるせいで成仏できないってやつだと思うんだよ」
「そんなあっけらかんという奴にどんな未練があるっていうの」
「あ、失礼だな。俺にだって未練の一つや二つ」
「例えば?」
「漫画の最終巻読みたかったなぁとか今月の学食の月替わり定食食べそびれたなとか」
あまりにもしょうもない未練に美桜は話途中の敦斗を放って歩き出す。そんな美桜を敦斗は慌てて追いかけてきた。五月だというのに日差しが厳しく、衣替え前の長袖のブレザーでは蒸し暑く感じる。早く家に帰って制服を脱いでしまいたかった。足早になる美桜を慌てて敦斗は追いかけてくる。
「お、おい。冗談だって」
「冗談でもなんでもいいんだけど、そもそも私には関係ないんだからついてこないでよ」
「そんなこと言わないで! 頼む! 美桜しか頼めるやついないんだ! このまま俺が成仏できずに悪霊にでもなったらお前だって目覚め悪いだろ?」
目覚めが悪いかどうかは置いておいて、美桜しか頼める人がいない、というのはたしかにそうなのだろう。葬式の間も、そして今こうやって歩いているときも、誰一人として敦斗へ視線を向ける人はいなかった。まるでそこに誰もいないかのように振る舞われるそれがどれだけ辛いのか、美桜は身をもって知っていた。その身に望んでなった美桜と、望まずになってしまった敦斗では雲泥の差だろうが。
「未練が解消されたらすぐにいなくなるから!」
「いなくなるったってどうやって」
「わっかんないけど、なんとなく感じるんだよ。色々と。例えばこうやっていられるのはあと四十六日だけだってこととか」
「四十六? 何その中途半端な日数」
美桜は敦斗の言葉に首をかしげた。一週間とか十日とかそういう区切りのいい数字じゃなくて四十六というよくわからない数字が腑に落ちなかった。けれど敦斗はさも当然とでも言うかのように言った。