ぎゅっと握りしめられた手のひらから心春の手のぬくもりが伝わる。そのぬくもりが優しくて美桜はもう一度声を上げて泣いた。
 泣いて泣いて泣いて、ようやく涙が落ち着いたころ、美桜はポツリと言った。

「私、ね……敦斗のこと、好きだったの」
「……うん」
「でもね、好きだって言わせてもらえなかった。自分は私に好きだって言ったのに、私の好きは聞いてさえもらえなかった」
「そっか……」

 好きだって伝えたかった。大好きだって、言いたかった。なのに。
 俯く美桜の手のひらをぎゅっと握りしめたかと思うと心春は立ち上がり、屋上のフェンスに手をかけた。そして。

「敦斗のー! バカやろーーー!」
「っ……!?」

 大声で叫ぶ心春に美桜は言葉を失う。そんな美桜を尻目に心春は絶叫を続けた。

「美桜のことを泣かせるなーー! バカーーーー!」

 振り返った心春はスッキリとした笑顔を浮かべていた。おいで、と手招きをされ美桜も隣に並ぶ。そして。

「敦斗のバカーー! 大好きだーー!」

 美桜の叫び声がこだまする。敦斗にも、届いただろうか。そんなことを思いながら握りしめたフェンスを見つめていると、隣に立つ心春が小さく声を上げた。

「あっ」
「え?」

 心春の声に、美桜は顔を上げると、先程までの曇り空が割れて青空が広がり始める。どこまでも続く青空は、まるで敦斗の笑顔のように澄み渡っていた。