屋上に突っ伏すように美桜は泣いた。もう敦斗はいない。いないのだ。どれだけ泣いたって「泣かないで」と言ってくれることはもう二度と、ない。敦斗はもういないのだから。

「うっ……ふっ……くっ……」
「泣かないで」
「え……?」

 美桜の背中を優しいぬくもりが包み込む。思わず顔を上げ振り返ると、そこには心春の姿があった。今はHR中のはずなのに、ううん。それよりもここに美桜がいることを誰もいないはずなのにどうして。
 驚きを隠せず呆然としている美桜に、心春は小さく笑った。

「どうしてここがわかったんだ、って顔してる。……あのね、敦斗が教えてくれたんだって言ったら笑う?」
「え?」

 敦斗が?
 心春の言葉の意味がわからず美桜は首をかしげる。そんな美桜に心春は言葉を続けた。

「さっきね、欠席連絡も入ってないのに美桜ちゃんが来てないって先生が言ってて。それでどうしたんだろうって思って美桜ちゃんに連絡しようとしたら――気づいちゃったの。私、美桜ちゃんの連絡先すら知らないんだって」
「あ……」

 そういえば、心春と連絡先の交換をした覚えはない。心春だけではない。美桜のスマホにはクラスの誰の連絡先も入っていなかった。それは今まで美桜がどれだけ他人を拒絶してきたかの証しであるかのように。

「私、それがショックで。美桜ちゃんと友達になれたと思ってたのに、実は全然まだ仲良くなれてなかったんだって」
「そ、んなこと」
「でもね落ち込んでいたら私の目の前に敦斗が現れたの。言葉は聞こえなかったけど困ってるような焦っているような表情を浮かべて着いてこいって私にジェスチャーで伝えてくるの。信じられないでしょ。でも、そんな敦斗を追いかけて来たら屋上で美桜ちゃんが泣いてた。それで気づいたの。ああ、敦斗は美桜ちゃんを心配して私をここに連れてきたんだって」
「こは……る、ちゃん……」

 美桜の言葉に、心春は一瞬驚いたように目を開きそれから嬉しそうに笑った。

「やっと心春って呼んでくれた」
「うっ……うぅっ……」
「何があったのか、無理に聞くつもりはないよ。でも、辛かったら辛いって言っていいんだよ。悲しかったら泣いていいの。ただ、一人で耐えないで。分かち合うことはできなくても、一緒にいることはできるんだから」