「色々振り回してごめんな。でも、四十九日の間、美桜と一緒に過ごせて楽しかった。本当は生きてる間に一緒に行けたらもっとよかったんだろうけど、でも俺すっげー幸せだった」

 笑顔を浮かべる敦斗の姿がさらに薄くなる。まるで空に溶けてしまうかのように透けていく敦斗の身体に美桜は必死で手を伸ばす。美桜はまだ伝えていないのだ。自分の想いを、何一つ伝えられていないのだ。

「待って!」
「美桜?」
「わた、私ね! 私も、敦斗のこと……!」

 けれど、その言葉は最後まで言わせてもらえなかった。敦斗はまるで美桜の言葉を遮るように、透けた手のひらで美桜の口を塞いだ。触れることなどできないはずなのに、なぜか美桜の口は何も言えなくなってしまう。

「駄目だよ」
「あつ、と」
「それ以上は駄目」

 瞳に悲しみを浮かべて首を振る敦斗に、美桜はただただ涙を流し続けた。

「ど、う、して……」

 美桜の必死の問いかけに、敦斗は悲しげに微笑んだ。

「それ以上聞いちゃうと、俺の未練になっちゃうから」
「あ……」
「勝手でごめんね」

 今度こそ、敦斗の身体は消えていく。

「やだ……敦斗……嫌だ……!」

 泣きじゃくる美桜の頬に、触れることのできない手が添えられる。

「泣かないで」
「あつ……と」
「ね、美桜。笑って」
「無理、だよ……笑え、ないよ……」

 ボロボロと涙がこぼれ落ちる。笑うことなんてできるわけがない。こんなに、こんなに辛いのに。

「美桜」

 敦斗の声が、美桜のすぐそばで聞こえる。もうほとんど姿を見ることはできない。

「笑って。俺、美桜の笑顔が、好きなんだ。だから、さ。笑ってよ」
「っ……あつ、と……」

 美桜は必死に涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭うと、笑顔を浮かべた。まだ涙は溢れているけれど、それでも笑う。敦斗が、好きだと言ってくれたから。

「大好きだよ。もう二度と会えないけれど、ずっと、ずっと美桜のことを想ってるから」

 その声とともに、敦斗の姿は完全に消えた。
 残されたのは膝をつき涙を流す美桜ただ一人。

「あつ、と……」

 もう名前を呼んでも返事をしてくれることはない。

「あつ、と……」

 転びそうになった美桜に「大丈夫か?」と心配してくれることもない。

「うっ……うぅっ……ああああぁっ!」