こんな敦斗を美桜は知らない。慈しむように、嬉しげに、幸せそうに美桜を見つめる敦斗を、知らない。

「美桜、俺は美桜のことが好きだよ」
「う、そだ」
「嘘じゃないよ。ずっと、ずっと美桜のことが好きだった」

 敦斗の言葉が信じられず、美桜は思わずその場に座り込んでしまう。コンクリートの冷たさが足を通して伝わってくるけれどもうどうでもよかった。
 美桜に視線を合わせるように、敦斗はそっとしゃがみ込んだ。

「中一のあのときからずっと美桜のことが好きだった。でも、ばあちゃんのことがあって美桜のことをずっと恨んでた。恨んで、恨んで、それでも美桜のことが好きな気持ちを捨てられない自分自身が許せなかった」

 敦斗はぽつりぽつりと話し始める。

「美桜の言葉の意味がちゃんとわかったとき、本当は「ごめん」って言いに行くつもりだった。でも、今までの自分の態度を、そしてあの日からまるで自分に罰を与えるみたいにひとりぼっちでいる美桜を思い出したら足がすくんだよ。今更、何を言うつもりなんだって。でもこんなことになるならもっと早く気持ちを伝えればよかった。死んでから後悔したって遅いのにな」
「敦斗……」
「だからさ死んだはずなのに、意識があって、さらに美桜に俺の姿が見えたとき、これは俺から美桜への贖罪なんだって思った。俺に何ができるかわかんないけど、でもどうにかして美桜を一人じゃなくしたかった。美桜に、もう俺のことを気にしなくていいんだよって伝えたかった」

 美桜の頬を涙が伝い落ちる。瞳から溢れた涙は美桜の膝を伝い屋上に小さな水たまりを作っていく。
 美桜は敦斗の言葉に今までのことを思い出した。
 美桜が食べたことのない学食に連れて行ったのも、大好きなティラミスのクレープ屋さんに連れて行ってくれたのも、そして心春たちと行動を共にするように仕向けたのも、全て美桜の為だったのだ。美桜が一人にならないために、これからさき一緒に過ごすことのできる友達を作れるように。例え隣にいるのが自分じゃなかったとしても、それでも美桜が笑顔でいられるように。敦斗が今までしてきたことは、全て自分が消えたあとも美桜が笑っていられるようにするため、だったのだ。

「そん、な」