「思わないよ」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
「上羽さんが……心春ちゃんが、そんなふうに思う子じゃないって知ってるから」
何度も心春から「名字じゃなくて名前で呼んでよ」と言われては誤魔化し続けたその名前を、ようやく美桜は呼ぶことができた。こんなふうに名前で呼び合うような――友人ができるなんて思わなかった。
「心春ちゃん、か」
「……まだ、本人の前で呼ぶのは照れくさいけどね」
「呼んでやれば喜ぶと思うよ?」
そんなこと敦斗に言われなくてもわかっている。
「これも全て敦斗のおかげだよ」
「俺の?」
「うん。かたくなだった私を敦斗が変えてくれた。だから今度は、私が敦斗の役に立ちたい。私、ちゃんと伝えるから。だから!」
美桜の言葉に敦斗は黙ったままだ。遠くでチャイムが鳴り響く。朝のHRの時間になったようで、賑やかだった校庭も静まり返る。こうやっていると、まるで世界に敦斗と二人だけになったようだった。風が吹き、どこからか転がってきた空き缶がカランカランと音を立てて転がっていく。それが転がっていく先を見つめながら、敦斗は小さく頷いた。
「そう、だね」
美桜の胸が酷く痛んだ。泣きそうなほど辛くて悲しくて、でもそれ以上に敦斗が未練なく去って行けることが嬉しかった。自分の気持ちなんてどうでもいい。辛くたって悲しくたって関係ない。今は、敦斗のことだけを考えるんだ。それでもどうしても溢れそうになる涙を堪えることができなくて、美桜は敦斗に背中を向けた。
「そ、れじゃあ、私心春ちゃんを呼んでくるね。今HR中だから少ししてから、」
「好きだ」
「……え?」
一瞬、美桜は何を言われたのかわからなかった。理解してからもその言葉は心春のためのもので、今言うはずではないと混乱する。
「あ、え、っと、も、もう! やだなー、告白は心春ちゃんが来てからしないと意味ないじゃん。あはは、ビックリしたよ。それじゃあ呼んでくるから待っ――」
「美桜」
美桜の言葉を遮ると、敦斗は美桜の名前を呼んだ。美桜はどういう表情を浮かべていいのかわからず、敦斗に背を向けたまま立ち止まった。そんな美桜に、敦斗はもう一度呼びかけた。
「美桜、こっち向いて」
「あ……」
敦斗の言葉に、美桜は躊躇いがちに振り返る。そこには優しい眼差しで美桜を見つめる敦斗の姿があった。
「なんでそんなことがわかるんだよ」
「上羽さんが……心春ちゃんが、そんなふうに思う子じゃないって知ってるから」
何度も心春から「名字じゃなくて名前で呼んでよ」と言われては誤魔化し続けたその名前を、ようやく美桜は呼ぶことができた。こんなふうに名前で呼び合うような――友人ができるなんて思わなかった。
「心春ちゃん、か」
「……まだ、本人の前で呼ぶのは照れくさいけどね」
「呼んでやれば喜ぶと思うよ?」
そんなこと敦斗に言われなくてもわかっている。
「これも全て敦斗のおかげだよ」
「俺の?」
「うん。かたくなだった私を敦斗が変えてくれた。だから今度は、私が敦斗の役に立ちたい。私、ちゃんと伝えるから。だから!」
美桜の言葉に敦斗は黙ったままだ。遠くでチャイムが鳴り響く。朝のHRの時間になったようで、賑やかだった校庭も静まり返る。こうやっていると、まるで世界に敦斗と二人だけになったようだった。風が吹き、どこからか転がってきた空き缶がカランカランと音を立てて転がっていく。それが転がっていく先を見つめながら、敦斗は小さく頷いた。
「そう、だね」
美桜の胸が酷く痛んだ。泣きそうなほど辛くて悲しくて、でもそれ以上に敦斗が未練なく去って行けることが嬉しかった。自分の気持ちなんてどうでもいい。辛くたって悲しくたって関係ない。今は、敦斗のことだけを考えるんだ。それでもどうしても溢れそうになる涙を堪えることができなくて、美桜は敦斗に背中を向けた。
「そ、れじゃあ、私心春ちゃんを呼んでくるね。今HR中だから少ししてから、」
「好きだ」
「……え?」
一瞬、美桜は何を言われたのかわからなかった。理解してからもその言葉は心春のためのもので、今言うはずではないと混乱する。
「あ、え、っと、も、もう! やだなー、告白は心春ちゃんが来てからしないと意味ないじゃん。あはは、ビックリしたよ。それじゃあ呼んでくるから待っ――」
「美桜」
美桜の言葉を遮ると、敦斗は美桜の名前を呼んだ。美桜はどういう表情を浮かべていいのかわからず、敦斗に背を向けたまま立ち止まった。そんな美桜に、敦斗はもう一度呼びかけた。
「美桜、こっち向いて」
「あ……」
敦斗の言葉に、美桜は躊躇いがちに振り返る。そこには優しい眼差しで美桜を見つめる敦斗の姿があった。