美桜は昇降口を抜け、教室ではなく屋上へと向かった。朝方まで降っていた雨のせいで空はどんよりとした雲がかかり、コンクリートの地面には所々水たまりが残っていた。
 昼休みともなれば弁当を食べる生徒でいっぱいになる屋上も、朝の通学時間では誰の姿もない。ガランとした屋上で、美桜は敦斗に向き直った。

「今日で、四十九日、だよね」
「ああ、そうだな」
「その、前に四十九日が来たら消えちゃうって言ってたけど……」
「あー、うん」

 敦斗は美桜の前に自分の手をかざして見せた。その手はいつも通り薄らと向こうが透けて見えた。けれど、美桜は違和感を覚える。何かが、昨日までと違う。

「透けが強くなって、る」
「ん。朝一は手のひらだけだったけどだんだんと腕の方も薄れてきてる。たぶん、最後は全身がこうなって、消える」
「……っ」

 やはり、消えてしまうのだ。もしかしたら、の淡い希望は敦斗の言葉で打ち砕かれた。美桜は思う。自分は何か、敦斗のためにできたのだろうか。消えてしまう敦斗のために、何ができるのだろうか。そんなの、一つしかない。

「ねえ、敦斗」
「ん?」
「今日まで敦斗が消えることがなかったのは、未練が晴れなかったから、だよね」
「……たぶんね」
「じゃあ、このまま消えたとして、それは敦斗の未練は晴れないまま存在だけが消滅するってことじゃないの?」

 美桜の問いかけに敦斗は答えない。俯いた敦斗の表情は美桜からは見ることができない。今、どんな顔をしているのだろう。

「ね、やっぱり想い、伝えようよ」
「美桜?」
「わかってる。上羽さんが晴斗君と付き合ってるってことは。それでも、それと敦斗が上羽さんを好きなこととは別だよ。逃げずにちゃんと想いを伝えよう」
「だから、どうやって伝えるんだよ」
「私が伝えるよ」

 顔を上げた敦斗の目を、美桜は真っ直ぐに見つめた。あの頃は、またこんなふうに敦斗と向き合える日が来るなんて思ってもみなかった。

「私が、上羽さんに伝える。今の私なら、届けられると思うんだ

 以前のような誰かを拒絶して誰とも関わり合わなかった美桜とは違う。敦斗のおかげで心春とは友達、と呼ぶにはまだぎこちないけれど、それでも随分と仲良くなれたと思う。今なら、美桜が敦斗から聞いていたと言って想いを伝えても頭ごなしに嘘だと思われることもないと思う。

「嘘だろって思われるよ」