その日の晩、美桜は一通のメッセージを送った。相手は兄の敬一だ。敬一から敦斗の兄である晴斗に連絡してもらって敦斗の引き出しの中にあるプレゼントを心春に渡してもらえれば、と思ったのだ。もしかしたらそれがきっかけで敦斗の気持ちが晴斗に気づかれるかも知れない。そうなったら敦斗は美桜を怒るだろうか。でも、美桜にとって今一番大事なのは敦斗なのだ。他の人のことを考える余裕なんて少しもなかった。
 ただ……。

「ごめんね」

 こんな美桜にも優しくしてくれた心春には、申し訳ないと思う。全部終わったら、謝るから。だから……。


 敬一からの連絡が来ないまま数日が経った。既読になったまま応答のないメッセージ欄に苛立ちを隠せない。何度か電話をかけてみたけれど、敬一が出ることはなかった。
 結局、敦斗のプレゼントは心春に渡すことができないまま、その日を迎えた。
 敦斗の死から四十九日経った今日、敦斗は消える。当の本人はいつもと何ら変わることなく、昨日までと同じ顔で美桜の隣に浮かんでいた。本当に、消えてしまうのだろうか? 敦斗の勘違いで、このまま幽霊としてずっとこの世に留まっているのではないだろうか。
 そう思う心と、でも本当に消えてしまうかもしれないと不安に思う心がせめぎ合う。
 もし敦斗が本当に今日消えてしまうとして、未練は晴れたのだろうか。思い残すことなくこの世を去れるのだろうか、と。

「美桜? 大丈夫? 危ないぞ」

 ふと気づくと、敦斗が心配そうに美桜の顔を覗き込んでいた。距離の近さに思わず後ずさる。すると美桜のすぐそばには電柱があり、あのままではぶつかっていたことに気づいた。

「び、ビックリした」
「いや、それは俺のセリフだって。黙ったまま電柱に突っ込んでいこうとするから焦ったよ。何かあった?」
「何かって……」
「って、まあ俺のせい、だよな」

 苦笑いを浮かべる敦斗に美桜は首を振るけれど誤魔化せはしなかった。敦斗自身も今日が四十九日目だということはわかっているはずだ。美桜はポケットの中のスマホを取り出す。けれど、メッセージは届いていなかった。間に合わなかった。
 ずっと考えていたことがあった。もうそれしかないんじゃないかって。そのために、敦斗は美桜を心春と近づけたんじゃないかって。

「ねえ、敦斗」
「ん?」
「ちょっと屋上、行ってもいいかな?」