ごめんと言いながらも敦斗の視線はキーホルダーに向けられたままだ。ピンクゴールドのチェーンの先に時計がついているそれはとても可愛くて――心春によく似合いそうだと思った。もしかすると心春にあげたいと思っているのだろうか。そういえば心春の誕生日がもうすぐだ。美桜は財布の中のお金を思い出す。これを買って敦斗から預かっていたと言って渡せば心春は喜ぶ、だろうか。それとも彼氏以外の男の子からは受け取れないと断られてしまうだろうか。

「敦斗、それ」
「ああ、ごめん。俺が前に買ったのとよく似てたからさ」
「そうなの?」

 もうすでに買っていたのか。その言葉に安心してしまう美桜がいる。敦斗のために何かしたいと思っていた。それが償いだと、好きな人にできる唯一のことだと思っていた。なのに、いざ心春へのプレゼントを代わりに渡して欲しいと言われたら、と考えただけで胸が張り裂けそうに痛い。結局、美桜の覚悟なんてこの程度だったのかと自分が自分で嫌になる。
 もう敦斗に残された時間はほとんどないというのに。

「そ、それって心春にあげたの?」
「ん? いや……。買ったのは随分前でさ。渡そう渡そうと思いながら、結局渡せずじまい。今も俺の部屋にある勉強机の引き出しの中で眠ってるよ」
「そんな……渡さなくて、よかったの?」
「……勇気が、出なくてさ。かっこ悪いだろ?」

 美桜は必死に首を振った。かっこ悪くなんかない。寂しそうな表情の敦斗に美桜は泣きそうになる。自分ならそんな顔、させないのに。敦斗がくれたものならどんなものでも喜ぶし大事にする。心春はズルい。美桜はどれだけ好きになってもその想いが敦斗に届くことはないのに、こんなにも好きでいてもらえて、心春が羨ましくて、妬ましい。
 でも、それと同時に今の美桜は心春がどんなにいい子なのかも知っている。だからこそ、余計に悲しくて切ない。みんな精一杯誰かを好きになっただけなのに、どうして……。

「まあだから気にしないでよ」
「うん……」

 気にしないで、と敦斗は言うけれど本当にいいのだろうか。それを心春にあげて敦斗の気持ちを伝える。もうそれしかないのではないか。でもきっと、敦斗にそう言ったところで「もう気にしないで」と言われてしまうのは目に見えている。