動揺することもなく二人のことを見つめる敦斗。いつから知ってたんだろう。知ってて好きになったのだろうか。それとも敦斗が好きになったあとで? どちらにしても自分の好きな人と自分の兄が付き合うなんて、辛すぎる。でも、それでもこうやって死んでも死にきれないぐらいに、好きだったんだ……。想いを伝えずに死んだことを悔やんで、幽霊になってしまうぐらいに……。
 敦斗の切ない想いに、美桜の胸は締め付けられるように痛んだ。
 死んでもなお、自分以外の人を想う心春を思い続ける敦斗。死んでもなお好きな人を想い続ける敦斗を好きになってしまった美桜。二人は似ているのかもしれない。どちらも報われない想いを胸に抱き続けている。

「帰ろっか」
「心春に何か用があったんじゃないのか?」
「ううん、もういいの」

 これ以上、こんな辛いところに敦斗を置いておきたくなかった。そして、美桜もまたそんな切ない表情を浮かべる敦斗を、見ていたくなかった。
 美桜は心春達に気づかれないように本屋を出る。
 敦斗の想いも、そして美桜の想いも実ることがないのはわかっている。でも、それでも敦斗には笑顔で逝って欲しい。それしか美桜にできることはない。
 でも……。

「敦斗?」

 ふと気づくと、隣にいたはずの敦斗の姿がなかった。どこに行ってしまったんだろう。まさか、消え――。

「違うっ」

 そんなわけない。まだ四十九日には日が残っているし、さっきまで普通にいたのだ。消えるわけがない。美桜は慌てて本屋の周辺に視線を向ける。隣は靴屋、それから服屋に、雑貨屋――。

「いた!」

 周りにいた人のどうした? という怪訝そうな視線に気づかないふりをして、美桜は敦斗の元に駆けつける。敦斗は雑貨屋の棚の前で何かをジッと見つめていた。視線の先にあったのは小さな時計のついたキーホルダーだった。

「敦斗?」
「ああ、ごめん」