とにかく、幽霊なのかなんなのか知らないけれど、お線香だけあげて帰ろう。死んでしまったクラスメイトのためにできるのはそれぐらいなのだから。
 美桜は敦斗のことを無視すると棺が置かれている部屋に戻った。クラスメイトたちは敦斗と最後のお別れをしているようだった。美桜もそれに倣って「さようなら」ともう動くことのない敦斗に声をかけた。

「さよなら、なんて冷たいな。ここにいるっていうのに」

 隣でふわふわ漂いながら拗ねたような口調で言う敦斗のことは気にしないことにする。
 一通り焼香が終わったのを確認すると、このあと家族だけで火葬場へと移動になるからその前に失礼する、と岡野が言っていた。どうやらこの場で解散になるようだ。

「なあ、もう帰るのか?」
「……って先生が言ってたでしょ」

 美桜は足早に敦斗の家を離れる。なのに何故か敦斗はそんな美桜に着いてくる。いったいどういうつもりなのか。

「何やってんの」
「だって俺、あのままあそこにいたら自分が霊柩車に乗せられて火葬場につれて行かれるところ見てなきゃいけないんだぜ? そんな趣味ねえよ」
「まあ、そりゃそうかもだけど」
「それに、親が自分のせいで泣いてるところなんて見たくねえし」

 その気持ちもわからなくは、ない。だからといって美桜についてこられても困る。美桜は敦斗の方を向くと冷たい口調で言った。

「それと私に着いてくるの、どういう関係があるのよ」
「お前しか俺の姿が見えねえんだよ」
「は?」
「他のやつは俺がどんなに呼びかけても気づかねえの。親も兄貴も、心春も」
「なんで……」

 思わず頭を抱えてしまう。どうしてよりにもよって自分なのだ。別に敦斗と親しいわけじゃない。たまたま小中高と同じところに進学したただの腐れ縁だ。幼なじみというほどの関係でもない。なのに、どうして。

「と、いうかなんでそんな感じなの」
「そんな感じって?」
「いや、その知らないけど死んだら普通あの世? に、行くんじゃないの?」
「俺だってわっかんねえよ」