美桜は自分の頭上で相変わらず浮いている敦斗を見る。授業を受ける美桜を尻目に、退屈そうにどこかを見つめている。その視線の先にあったのは心春の姿だった。やはり敦斗は今でも心春のことを想っている。その想いを届けなければ敦斗の未練は晴れないのかも知れない。
 以前に比べれば心春と仲良くなれたと美桜は思う。今なら「実は敦斗って上羽さんのことが好きだったんだよ」と言っても信じてもらえるのではないだろうか。
 敦斗に相談したら、反対されるかもしれない。なぜか敦斗は美桜が直接心春に敦斗の気持ちを伝えることを嫌がる。そんなふうに人伝いに自分の気持ちを伝えられるのが嫌なのかも知れない。でもすこしその気持ちはわかる気がする。自分の気持ちはきちんと自分の口から伝えたい。上手くいこうが行くまいが、それでも自分の想いは自分だけのものなのだ。
 とはいえ、今の敦斗では伝えることはできないのだ。代わりに伝えられるのは美桜しかいないのだ。

 その日のLHRのあと、いつもなら一番に教室を出て行くのだけれど今日は違った。大半の生徒が帰るのを見送って美桜は教室の自分の席にいた。傍目から見るとグズグズと帰りの準備をしている、としか見えないはずだ。
 バレないように教卓の前に視線を向ける。相変わらず心春は帰ることなく宇田たちと喋っていたけれど、スマホを見たと思うと「先に帰るね」と言って教室を出て行った。
 美桜は慌ててその後ろを追いかける。心春の家とは反対方向だけれど、何処に行くつもりなのだろう。
 美桜は疑問に思いながらもそのあとを追いかける。心春は美桜に気づかないまま学校を出て駅の方へと向かった。

「……なあ」
「なに」
「今って、なにしてる?」

 心春の姿を追いかける美桜に対して敦斗は怪訝そうな表情を向ける。美桜はそれに対して「こっちに用があるの」とだけ言ってごまかす。敦斗は相変わらず不可解そうな表情を浮かべてながら美桜に着いてきていた。
 しばらく歩くと、どうやら心春は駅の方に向かっているのだとわかる。けれど、駅に遊びに行くのなら宇田や美咲を誘うだろう。美桜を誘ったこともあった。それなのに、今日は一人だ。友達が多いタイプの心春にしては珍しい。