美桜の頭上で、敦斗が恨みがましい声で言う。そこは心春と出かけるなんていいな、と言うところではないのかと思うけれど、美桜が出かければ必然的に敦斗も一緒に出かけることになるのだから、敦斗は美桜を通じて間接的にデートしているようなものだ。そこを嘆く必要はないということだろう。
 
「楽しみ?」
「……まあ、ね」

 照れくさそうな敦斗に美桜はなんとか口角を上げると笑みを浮かべたような表情を作る。
 最近、上手く笑えないのだ。特に敦斗が関わることに対して。敦斗の未練を晴らすことが償いだと思っていたのに、敦斗のためにできる唯一のことだと思っていたのに、いつの間にか大きくなった感情が「嫌だ」と「やめて」と悲鳴を上げる。
 そんなこと言う資格は、これっぽっちもないはずなのに。

 放課後、心春に連れられるままに美桜はティラミスアイスのお店へと向かった。駅のショッピングモール、ではなくロータリーに止められた移動販売車で売っているようだった。
 雑誌に載るほどの人気なお店ということもあり、店の前には行列ができていた。
 心春とともに行列の最後尾に並ぶと数えてみる。どうやら美桜たちの前に十六人ほど並んでいるようだ。売り切れはないだろうけれど、かなり待ち時間がある。そんなことを思っていると心春が口を開いた。

「うわー、凄く待ってるね。今数えたら十六人も待ってるよ。ヤバイね」
「ビックリだよね」

 けれどこれだけの人が並んでいるということはやはり美味しいのだろう。わくわくしながら待っていると、隣に立つ心春が笑った。

「美桜ちゃん、凄く楽しみなんだね」
「え、あ、うん。そう、だね」

 そんなに浮かれた顔をしていただろうか。慌てて緩んだ顔を戻そうとするけれど上手くいかない。

「ふはっ。美桜ちゃん変な顔」
「ひ、酷い」
「あはは、ごめんごめん」

 悪びれない様子で心春は笑いながら謝った。「もう!」と怒ったふりをしながら、前の人に続いて進む。まだ当分美桜たちの番は来そうになかった。
 それにしても。