遠くから心春が美桜を見つけ、手を振る。美桜は敦斗に視線を向けることなく心春たちの方へと向かった。

「もう体調大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「次さ、マイナス30℃の世界に行こうって言ってるんだけど美桜ちゃんもどうかな? これなら気持ち悪くならないと思うし」

 美桜も一緒に楽しめるように、という心春の気遣いを嬉しく思うと同時に、こういうところを敦斗も好きになったのかなと思うと胸が痛む。けれど、美桜は笑顔を浮かべると「行く!」と微笑んだ。
 最初からわかっていたことだ。そもそも償いのためだとそう思っていたはずなのに、こんな気持ちを抱くことが間違っている。
 少しでも、敦斗が未練を晴らすことができるように。心春と過ごす時間を作れるように。敦斗(好きな人)に美桜ができるのはそれぐらいなのだから。