心配そうに尋ねる敦斗に美桜は冷や汗を掻きながらなんとか返事をする。けど随分と高いところに来てしまった今では窓の外を見ることすらできない。これからまだてっぺんに向かっていくのだと思うと不安になる。本当に大丈夫なのだろうか。そのとき、ゴンドラが大きく揺れた。

「ひゃっ」

 風のせいかゴンドラは大きく揺れ、思わず美桜は手摺りに掴まる。そんな美桜を見つめていた敦斗は、立ち上がると隣の席に移動した。

「え?」
「この方が、安心じゃない?」
「それは、そう、だけど」

 たしかに隣に敦斗が座ってくれているというだけで、先程までよりも怖くない、気がする。ただ今度は怖いから、ではなく狭いゴンドラ内ですぐそばに敦斗が座っているということに心臓がドキドキと音を立てて鳴り響く。同じ家で寝泊まりしているくせに、と言われるかもしれないけれどそれとこれとは話が別だ。触れそうなほど近い距離に敦斗がいるというだけで美桜の心臓は壊れてしまいそうだ。いつの間に、こんなにも好きになっていたのだろう。そう思うと同時に胸が苦しくなる。どうして今なのだろう。敦斗が死ぬ前に好きになっていれば。何度同じことをお思ったかわからない。でも、それと同時に思う。生きていようが死んでいようが、敦斗が好きなのは美桜ではなく心春なのだと。今こうやって敦斗は美桜と一緒に観覧車に乗っているけれど、本当ならここにいるのは美桜ではなく心春だったはずだと。

「……敦斗、さ」
「ん?」

 こんなこと聞かない方がいい。聞けば後悔するだけだ、自分を傷つけるだけだとそう思うのに、開いた口はもう止まらない。

「観覧車に乗る予定、だったの?」
「今乗ってんじゃん」
「そうじゃ、なくて」

 不思議そうな敦斗に、美桜はぎゅっと手のひらを握りしめると自分の膝を見つめながら言う。

「本当だったら、生きていたら、これに好きな人と乗る予定、だったの?」

 言ってしまった。聞いたところでいいことなんて一つもないとわかっているのに。それでも聞かずにいられなかった。
 観覧車の中に流れるBGMの音がやけにうるさく聞こえる中で、敦斗の「そうだよ」と言う音だけは妙にクリアに聞こえた。

「そっ、か」

 心臓の音は痛いぐらいにうるさい。けれどそれ以上に、頭の中が妙に冷たくなっていく。泣きたいのかいっそ笑ってしまいたいのかわからない。