地上三十メートルの高さから滑り降りるウォータースライダーは美桜の想像以上に凄かった。あんな乗り物があっていいのかと思うぐらいに。けれどぐったりとしているのは美桜だけで、心春達は「次は回転するのに乗ろうよ」とか「それよりフリーフォールがいいよ」とか楽しそうに言い合っている。とてもじゃないけれど美桜がついて行けるようには思えない。

「あ、あの」
「どうしたの?」
「わた、し今のでまだ足下ぐらぐらしてるから、ごめんだけど三人で乗ってきてもらってもいいかな?」
「え、大丈夫? ちょっと休憩する? ついてるよ?」
「ううん、そこのベンチで休んでたら大丈夫だから。せっかく来たんだし、楽しんできて」

 先程の心春からの言葉を返せば、心春は渋々頷いた。「元気になったら合流してね」と言ってくれたのは意外にも美咲だった。美咲は美咲なりに、美桜のことを気にしてくれているようだった。

「わかった。ありがとう」

 ふらふらしているのを堪えてそう言うと、心春達が次の乗り物に向かって歩き出したのを確認して、美桜は近くのベンチに座り込んだ。

「大丈夫か? 顔、真っ青だぞ」
「うん……。飲み物飲んだらマシになると思う……」

 リュックに入れておいたペットボトルを取り出すと、震える手でキャップを開け口に含む。冷凍庫で冷やしておいたお茶は半分ほど溶けてちょうどいい冷たさになっていた。

「ごめんね」
「え?」

 謝る美桜に、敦斗は何のことかわからない、とでも言うかのように眉をひそめる。だから美桜は、もう一度きちんと口にした。

「上羽さんと一緒に回りたかったのに……こんなことになって、ごめん」
「なっ」
「少ししたら、また回れるように、なるから」

 美桜は必死に笑顔を浮かべる。そうしないと、敦斗が気にしてしまうと思ったから。けれど敦斗は「もういい」と首を振った。

「私が、頼りにならない、から?」
「違う」
「大丈夫、だよ。ちょっとビックリしただけで……。なんなら、今から追いかけても」
「だから違うって!」

 敦斗は声を荒らげると、手のひらを握りしめた。

「無理、させたいわけじゃ、ないんだ」
「敦斗?」
「……ごめん」