空っぽになった隣の席に、いつの間にか敦斗が戻ってきた。

「くそ、お喋りめ」
「敦斗、私のこと、心配してたの?」
「心配というか……まあ、その……うん」

 ぶっきらぼうな言い方に笑おうとして、でも泣きそうになって、結局上手く表情を作れないまま美桜は小さな声で「ありがとう」と伝えた。敦斗は「別に」とだけ言うと頭をかいた。チラッと見えた敦斗の耳が、ほんのりと赤くなっているような気がした。


 それからしばらくしてバスは予定通りテーマパークへと到着した。クラス毎に昼食を食べたあと班別で自由行動となる。班を作ったと言っても全員で回る班もあれば二人ずつや三人ずつなど分かれるところもあった。美桜がいる心春達の班も同様で、二人が抜け心春と美咲、宇田、そして美桜だけが残った。バスの中の出来事のおかげで美咲から美桜への当たりはなくなったものの、それでもこのまま美桜がいれば友達同士での行動の邪魔になることはわかる。
 ただ敦斗が心春と回りたがっていたことを知っているだけに、どうしたらいいのか悩んでしまう。本当なら「私のことは気にしないで三人で回って」と言って遠慮するのだけれど……。
 困り果てた美桜に、心春は笑顔で言った。

「よし、行こっか!」

 宇田も美咲も心春の言葉に特に異論はないようで「どれから行く?」なんて言いながらパンフレットを覗いている。困っているのは美桜だけだ。敦斗のことを思えばこれで正解なのだろうけれど、三人は美桜が一緒で楽しめるのだろうか。

「あ、あの。私」
「今、私が一緒でみんなは楽しめるの? とか思ってるでしょ」
「それは……」
「みんなが、じゃなくてさせっかく来たんだし美桜ちゃんも楽しもうよ」

 以前ならそれでも「私はいい」と撥ねのけたかもしれない。「憐れんでるんでしょ」と睨みつけたかもしれない。上辺だけを見て決めつけて逃げていたあの頃なら――。

「……うん」

 おずおずと頷く美桜の腕を心春は満面の笑みで掴んだ。仲のいい友人にするかのように。
 心春達に連れられるまま「まずはあれ!」と指さされたウォータースライダーへと美桜も向かった。乗ったことはなかったけれど、なんとかなるだろう、とそう思っていた。

「っ……な、にあれ……」