それ以上、美桜はなんて言っていいかわからず俯いてしまう。そしてふとした疑問が浮かぶ。
「もしかして、だから私のこと、グループに入れてくれたの?」
「どういうこと?」
「だから、敦斗の代わりに、その」
「……敦斗が美桜ちゃんのことを心配してたから私が代わりにってこと?」
淡々と言われてしまうと、急に言ってはいけないことを言ってしまったような気になる。それでも一度口から出た言葉を戻すことはできない。美桜はおずおずと頷く。そんな美桜に心春はため息を吐いた。
「なんで私が敦斗のためにそんなことしなきゃいけないの」
「で、でもじゃあどうして……」
「それ、は」
美桜の言葉に心春は躊躇うようなそぶりを見せたあと、周りに聞こえてないかどうか確認したあと、さっきまでよりも小さな声で話し始めた。
「美桜ちゃんは覚えてないと思うけど、私美桜ちゃんに助けられたことがあるの」
「私、に? え、違う人じゃなくて?」
「美桜ちゃんだよ。入学してすぐの頃、学校の近くの桜並木で私転んじゃって。膝はすりむくし足首はひねるし、おまけに大事なキーホルダーは落とすしで散々だったの。同じ学校の子は通るけど知り合いでも何でもない私が転んでたってみんな見て見ぬふりで。でも、美桜ちゃんだけは違った。「大丈夫ですか?」って声をかけてくれて私に絆創膏をくれて、落としたキーホルダーを動けない私の代わりに探してくれた。……覚えてないかな?」
美桜が首を振ると「そっか」と心春は苦笑いを浮かべた。けれどすぐに笑顔に戻る。
「きっと美桜ちゃんにとっては覚えてもいないぐらいの些細な出来事だったんだと思う。でも、私にとっては凄く大きなことだったの」
「そんな……」
「本当はもっと早く声をかけたかったんだけど……。あれ? これじゃあ、敦斗のことバカにできないや」
慌てて首をふるけれど、心春はそんな美桜に「ごめんね、変な話しちゃって」と言うと宇田たちから呼ばれ後ろの席へと戻っていく。
心春の言った「もっと早く声をかけたかったんだけど……」に続く言葉はきっと「美桜ちゃんが他人を拒絶していたから」だと美桜は思った。他人を拒絶し、逃げていた美桜に心春は声をかけることを躊躇ったのだろう。敦斗のことも同じだ。逃げて逃げて逃げ続けて、勝手に一人を選んだ。そんな美桜を敦斗が死ぬまで心配してくれていたなんて……。
「もしかして、だから私のこと、グループに入れてくれたの?」
「どういうこと?」
「だから、敦斗の代わりに、その」
「……敦斗が美桜ちゃんのことを心配してたから私が代わりにってこと?」
淡々と言われてしまうと、急に言ってはいけないことを言ってしまったような気になる。それでも一度口から出た言葉を戻すことはできない。美桜はおずおずと頷く。そんな美桜に心春はため息を吐いた。
「なんで私が敦斗のためにそんなことしなきゃいけないの」
「で、でもじゃあどうして……」
「それ、は」
美桜の言葉に心春は躊躇うようなそぶりを見せたあと、周りに聞こえてないかどうか確認したあと、さっきまでよりも小さな声で話し始めた。
「美桜ちゃんは覚えてないと思うけど、私美桜ちゃんに助けられたことがあるの」
「私、に? え、違う人じゃなくて?」
「美桜ちゃんだよ。入学してすぐの頃、学校の近くの桜並木で私転んじゃって。膝はすりむくし足首はひねるし、おまけに大事なキーホルダーは落とすしで散々だったの。同じ学校の子は通るけど知り合いでも何でもない私が転んでたってみんな見て見ぬふりで。でも、美桜ちゃんだけは違った。「大丈夫ですか?」って声をかけてくれて私に絆創膏をくれて、落としたキーホルダーを動けない私の代わりに探してくれた。……覚えてないかな?」
美桜が首を振ると「そっか」と心春は苦笑いを浮かべた。けれどすぐに笑顔に戻る。
「きっと美桜ちゃんにとっては覚えてもいないぐらいの些細な出来事だったんだと思う。でも、私にとっては凄く大きなことだったの」
「そんな……」
「本当はもっと早く声をかけたかったんだけど……。あれ? これじゃあ、敦斗のことバカにできないや」
慌てて首をふるけれど、心春はそんな美桜に「ごめんね、変な話しちゃって」と言うと宇田たちから呼ばれ後ろの席へと戻っていく。
心春の言った「もっと早く声をかけたかったんだけど……」に続く言葉はきっと「美桜ちゃんが他人を拒絶していたから」だと美桜は思った。他人を拒絶し、逃げていた美桜に心春は声をかけることを躊躇ったのだろう。敦斗のことも同じだ。逃げて逃げて逃げ続けて、勝手に一人を選んだ。そんな美桜を敦斗が死ぬまで心配してくれていたなんて……。