「うん、敦斗のお兄さんが私の家庭教師で、その関係で敦斗の子とも知ってたんだ。もう3年になるかな。だから、おばちゃんのことで敦斗が荒れてたのも知ってる」
「…………」
美桜は何も言えなかった。あのときの敦斗のことを思い出してしまい喉の奥が苦しくなる。どんな恨み言を言われていたんだろう。言われても仕方のないことをしたとわかってはいる。いるのだけれど。
けれど、心春の口から出たのは、意外な言葉だった。
「美桜ちゃんのことも、心配してた」
「嘘!」
反射的に心春の言葉を否定してしまう。だって、そんなことあるわけがない。敦斗が自分のことを心配していただなんて。
「嘘じゃないよ。そりゃ最初はね、美桜ちゃんにしてもらったことを棚上げして恨み言を言っていたときもあったよ。本人の中でなかなか折り合いがつかなかった時期も長かったみたい。けど、それでも敦斗は美桜ちゃんのことを心配していたよ」
「私を、心配?」
思わず視線を空中に向ける。敦斗は美桜たちの話を聞いているのかいないのか、そっぽを向いたまま浮かんでいる。わざとらしく向けられた背中をジッと見つめていると、心春は不思議そうに「美桜ちゃん?」と名前を呼んだ。
「どうしたの?」
何かあるのだろうか、そんな疑問を覚えたように心春は視線の先を追いかける。美桜は誤魔化すように慌てて返事をした。
「ご、ごめん、何でもないの。でも敦斗が私を心配してたってそんなこと……」
「ホントだよ。けど、自分の子どもみたいな態度のせいで今まで美桜ちゃんに嫌な想いをさせてきたのに、手のひらを返すみたいに行けないってウジウジ言って情けないったら」
「上羽さん……?」
「あ、ごめんね。つい敦斗のことを思い出してイライラしちゃった」
照れくさそうに笑うと握りしめた拳を慌てて開いた。心春に、こんな一面があったなんて知らなかった。思えば敦斗のことにしても美桜が知っているのなんてほんの一部分で。それと同じように、美桜が苦手に思っていた心春にもきっといろいろな顔があるのだろう。美桜が見える範囲だけで決めつけて、見ようとしなかったから知らなかっただけで。
「そんな敦斗が、やっと美桜ちゃんと話をしてみるって言ってたのに、こんなことになるなんて……。バカだよね、言いたいことがあるなら死ぬ前に伝えないと、もう一生伝わらないのにね」
「そう、だね」
「…………」
美桜は何も言えなかった。あのときの敦斗のことを思い出してしまい喉の奥が苦しくなる。どんな恨み言を言われていたんだろう。言われても仕方のないことをしたとわかってはいる。いるのだけれど。
けれど、心春の口から出たのは、意外な言葉だった。
「美桜ちゃんのことも、心配してた」
「嘘!」
反射的に心春の言葉を否定してしまう。だって、そんなことあるわけがない。敦斗が自分のことを心配していただなんて。
「嘘じゃないよ。そりゃ最初はね、美桜ちゃんにしてもらったことを棚上げして恨み言を言っていたときもあったよ。本人の中でなかなか折り合いがつかなかった時期も長かったみたい。けど、それでも敦斗は美桜ちゃんのことを心配していたよ」
「私を、心配?」
思わず視線を空中に向ける。敦斗は美桜たちの話を聞いているのかいないのか、そっぽを向いたまま浮かんでいる。わざとらしく向けられた背中をジッと見つめていると、心春は不思議そうに「美桜ちゃん?」と名前を呼んだ。
「どうしたの?」
何かあるのだろうか、そんな疑問を覚えたように心春は視線の先を追いかける。美桜は誤魔化すように慌てて返事をした。
「ご、ごめん、何でもないの。でも敦斗が私を心配してたってそんなこと……」
「ホントだよ。けど、自分の子どもみたいな態度のせいで今まで美桜ちゃんに嫌な想いをさせてきたのに、手のひらを返すみたいに行けないってウジウジ言って情けないったら」
「上羽さん……?」
「あ、ごめんね。つい敦斗のことを思い出してイライラしちゃった」
照れくさそうに笑うと握りしめた拳を慌てて開いた。心春に、こんな一面があったなんて知らなかった。思えば敦斗のことにしても美桜が知っているのなんてほんの一部分で。それと同じように、美桜が苦手に思っていた心春にもきっといろいろな顔があるのだろう。美桜が見える範囲だけで決めつけて、見ようとしなかったから知らなかっただけで。
「そんな敦斗が、やっと美桜ちゃんと話をしてみるって言ってたのに、こんなことになるなんて……。バカだよね、言いたいことがあるなら死ぬ前に伝えないと、もう一生伝わらないのにね」
「そう、だね」