敦斗もここがどこかわかっていないようだ。学校が手配したバスが迷子になる、というのも考えづらいので道はあっているのだろう。そう考えた美桜はバスの中が妙に静かなことに気づいた。こんな静かな中で敦斗と話していれば独り言を言う変なヤツだと思われるかもしれない。慌てて口を押さえて辺りを見回す。けれど、なぜかクラスメイト達はみんな、規則正しい寝息を立てて眠っていた。

「みんな、寝てるの?」
「みたいだね」

 そんなことがあるのだろうか。たまたま全員が眠っている? 百歩譲って帰りのバスならみんな疲れているしね、と納得もできる。けれど今はまだ午前中で、これからテーマパークに向かうところだ。なのに、岡野まで眠っているというのは。

「ねえ、何か変じゃない?」
「そうかな?」
「きゃっ」

 バスが大きく揺れて美桜は体勢を崩す。椅子から落ちそうになったところを敦斗が抱き留めてくれた。

「危ないな」
「ごめん、ありがとう」

 お礼を言って顔を上げ、そして美桜は疑問に思った。今、敦斗は美桜が転ばないように受け止めてくれている。触れることができないはずの敦斗が、なぜか美桜を受け止めているのだ。

「なん、で」
「どうかした?」

 敦斗は不思議そうに首をかしげる。けれど、美桜はそれどころではなかった。思わず手を伸ばし敦斗の頬に触れる。美桜の震える手は、敦斗の頬のぬくもりに触れた。もう二度と触れることのないと思っていた敦斗に触れている。

「美桜? どうしたの?」

 こんなこと、ありえない。こんな夢みたいな、こと――。

「そっか、夢なんだ」

 夢だから敦斗に触れることができる。夢だからこうやって敦斗が生きている。全部、全部夢だから。どうせ夢なら、敦斗が死んでしまったことが夢ならいいのに。

「ねえ、敦斗」
「ん?」
「遠足、楽しみだね」
「おう。俺、ジェットコースター乗りたいんだよね。あと――」
「え? なんて?」

 敦斗の声が上手く聞こえない。なんて言おうとしているのだろう。敦斗の姿がだんだんと多くなっていく。暗闇に吸い込まれるように、小さくなる敦斗の名前を必死に呼び続ける。

「敦斗? 敦斗!」
「外崎さん?」
「……え?」

 気が付くと美桜は誰かに身体を揺すられていた。慌てて目を開けると、そこには岡野の姿があった。

「随分とうなされていたようだったけど大丈夫か?」