一言、そう返事をするだけで今の美桜には精一杯だった。


 そして、待ちに待った金曜日。朝、カーテンの隙間から差し込む光は暴力的なほど眩しくて、開ける前から生天和ことが予想ついた。それでもカーテンを開け、晴れていることを確認した。
 準備をして、リュックを背負い学校に向かう。足が重い。敦斗のことがなければ、遠足なんて行かなかったかもしれない。居場所のない班で向かうテーマパークなんて苦痛でしかないのだから。もっともそう思っているのは美桜だけではないようで。すでに運動場に班ごとに集まっていた心春が美桜に気付き手を振ると、隣にいた美咲があからさまに嫌そうな表情を浮かべた。邪魔者が来た、まるで顔にそう書いているかのようだ。

「おはよ。晴れてよかったね」
「う、うん」
「せんせー、うちの班全員揃いましたー」
「そしたら、バスに乗って」
「はーい。ほら、行こ」

 心春に背中を押されるままにバスへと向かう。バスの中にはすでに何人は座っていて、美咲や宇田は奥の空いている席へと向かう。美桜はどうしたらいいだろう、と躊躇っていると心春が「行くよ」と美桜を連れていく。戸惑いながらついていくけれど、美咲は一番後ろの席であからさまに不服そうな表情を浮かべていた。

「心春、こっち座りなよ」
「うーん、でもそこあと一つしか席ないし」
「心春だけなら座れるじゃん」

 苛ついた雰囲気の美咲に、心春は眉をひそめた。なぜかわからないけれど、心春は美桜を仲間に入れようとしてくれている。真意はわからなかったけれど、どうやら善意のようで。けれど、それが美咲には気に入らないらしい。そりゃそうだろう、ポッと出のぼっちを自分たちのリーダーが気にかけていているのだ。さらにそれで自分たちが蔑ろにされれば嬉しいわけがない。
 美桜は辺りを見回す。二つほど前に開いている席があるのに気づいた。

「わ、私」
「え?」
「酔いやすいから、一番後ろは無理なの。だから、あっちの席に座るね」
「でも」
「ほら、自分でそう言ってるんだからいいじゃん。ね、座ろうよ」
「うん……」

 まだ気になるのか心春は美桜の方を気にしている。美桜はそんな心春に背を向けると、開いている席へと向かった。隣の席には当たり前のように敦斗が座る。

「酔いやすいってホント? そんな話、俺聞いたことないけど」