普段通り喋ろうと思うのに、好きだと認めてしまったからかどうしても言葉がぎこちなくなってしまう。この間まで、こんなときなんて言ってただろう。どう言えばいいだろう。敦斗は変に思っていないだろうか。そんなことばかりが頭を過り、結局言葉は出てこないまま学校に着いてしまった。
 教室に入ってしまえば敦斗と話をしなくてもおかしく思われないはずだ。いつもより早足で、でも敦斗に気づかれない程度で美桜は教室へと向かった。
 四日ぶりの教室、とはいえ特に何かが変わっているわけではない。いつも通りの席に座ると、美桜は息を吐いた。こんなにも気まずいのなら好きだなんて気づかなければよかった。そうすれば今も軽口を叩くぐらいはできたかもしれないのに。

「はぁ」

 何回目かのため息を吐いていると、美桜の机に影が落ちた。不思議に思い顔を上げると、そこには心春の姿があった。

「おはよう」
「え、あ、おは、よう?」
「風邪引いてたんだって? もう大丈夫?」
「う、うん。もう平気」

 いったいなんのなのだろう。けれどそう思ったのは美桜だけではないようで、教室のあちこちから視線を感じる。みんなどうして心春が美桜に話しかけているのか不思議でならないのだ。中にはヒソヒソと何かを話している声まで聞こえる。

「えっと……」

 何の用? と、ストレートに聞くこともできず、それでもどうしたの、という思いを込めて首をかしげてみる。そんな美桜に心春は笑顔で言う。

「遠足、延期になってよかったよね」
「う、うん」
「外崎さんは――」
「心春!」
「え? あー、はいはい。ごめんね、呼ばれちゃった。またね」

 痺れを切らしたのか、教卓の近くの席から宇田が心春を呼んだ。心春はまだ何か美桜に言いたそうだったけれど、またねと言い残して宇田の元へと戻っていった。
 そして美桜の心の中でもしかして、が浮かび上がる。心春はもしかして美桜のことを心配して、気にかけて声をかけてくれた、のだろうか。

「いい子だなぁ」
「だろ?」

 思わず呟いた美桜の耳に敦斗の嬉しそうな声が聞こえる。頭上を見ると、笑顔を浮かべる敦斗の姿があった。その姿に美桜の胸が痛む。
 いっそ、心春が嫌な子だったらよかったのに。美桜のことなんて無視して、仲間はずれにするような子だったら、嫌いになれたのに。

「うん……」