と、いうことは他のクラスの子だろうか。未だに他のクラスどころか同じクラスの人間の名前と顔が一致しないことがある美桜とは違い、敦斗はクラスを問わず人気だったから葬式に来ていたとしても不思議はない。気にせず敦斗の家を通り過ぎると美桜は学校へと急いだ。

 
 美桜が到着したときにはクラスの大半が来ていた。全員が揃ったところで岡野が出欠を取り、校長と学年主任とともに敦斗の家に出発する。美桜にとっては来た道を逆戻りしているだけだ。帰りは学校じゃなくて現地解散にしてくれないだろうか。美桜がそんなことを考えている間にも敦斗の家へと近づいていく。

「あ……」

 白と黒の幕――鯨幕が張られ玄関には大きな提灯が飾られている。どこからどう見ても葬式会場という雰囲気に、何人かの女子がすすり泣き始めた。
 岡野が先に中へと入り、敦斗の母に挨拶をする。そのあと美桜たちクラスメイトが中へと入った。そのあとに続いて美桜も中へと入る。敦斗の母に気づかれないように。遠目から見た敦斗の母は昔よりも随分と痩せたように見える。げっそりとした敦斗の母は喪服に身を包み、青い顔をしていた。
 
 居間と和室の間の襖を取っ払い、一間続きのようにしたその部屋に敦斗の遺影と棺があった。
 けれどその部屋に入った瞬間、美桜は自分の目を疑った。何度も目を擦り、(しばたた)かせた。そして周りの人達を見る。けれど誰も驚いた様子はなく、それよりも遺影に映る笑顔の敦斗に涙を流す。あちらこちらから嗚咽が聞こえ、誰一人として美桜のような行動を取っている人はいなかった。
 
 どうして……。
 
 美桜の目には、自分の遺影の前で頭を掻く敦斗の姿が見えていた。一昨日までと同じように制服を身に纏い、宙に浮いていた。
 いやいや、おかしい。どうして死んだはずの敦斗がそこにいるのか。そして周りの人間はなぜ気づかないのか。そもそも宙に浮いているってどういうこと?
 顔には出さないけれど、美桜の頭の中はパニックだった。そしてそうこうしているうちに、敦斗が振り返った。

「あれ?」

 慌てて逸らそうとしたのに、目が合ってしまった。敦斗は驚いたような表情を浮かべたあと嬉しそうに笑った。

「マジかよ、美桜。お前、俺のこと見えてんのか?」