波が打ち付ける音だけが聞こえる砂浜で、美桜は真っ直ぐに敦斗を見つめた。敦斗は怪訝そうな表情で美桜を見る。

「たしかに、今の敦斗には前にも後ろにも何もないかも知れない。でも、それは敦斗の未来がまだ決まってないだけで、敦斗が望めば360°どの方向にだって進める。ここに広がる全てが全部、敦斗の未来なんだよ」

 感情が、言葉がぐちゃぐちゃになって言いたいことの半分も言えていない気がする。こんな拙い言葉で伝わるだろうか。不安になりながらも、美桜はなんとかして敦斗に伝えたかった。

「なんだよ、それ」

 敦斗はしゃがみ込むと頭を抱えた。やはり上手く伝わらなかった。言葉にして伝えることをずっと放棄して人から逃げていた報いなのかもしれない。どうすれば……。
 困り果てる美桜の耳に小さな笑い声が聞こえた。

「ったく、普段後ろ向きなくせに人のことだけはいつも前向きだよな」
「え?」
「あー、なんか悩んでるのがバカバカしくなってきた」

 敦斗は立ち上がると大きく伸びをした。ついて行けないのは美桜の方で、いったい何が何だかわからない。けれど、先程までと違い敦斗の表情が明るくなっているのに気づいた。

「えっと」
「ま、そうだよな。くよくよしてたって何が変わるわけでもないもんな。わかってたんだけど、なんか……ダメだな、俺って」
「ダメなんかじゃないよ。逆の立場なら私だって絶対辛いと思うし、なんなら悪霊になって呪ってたかもしれない」
「悪霊って……」

 美桜の言葉に敦斗はおかしそうに笑うと顔を上げた。その目は真っ直ぐに未来だけを映しているように見えた。

「これ全部、俺の未来、か。そうだな。何もないように見えてもどこかには続いてるわけだもんな」
「敦斗……」
「ま、未来を見つけるためにはさっさと成仏しなきゃいけないんだけど」
「そう、だね」

 未練を晴らすということがどういうことか、わかっていたはずなのに改めて言葉にされるとどうしてこんなにも寂しいのだろう。成仏して、敦斗がこの世界から完全にいなくなる。もうこうやって話をして顔を合わせることもなくなってしまう。それがなぜか泣きたいぐらいに辛くて苦しくて悲しかった。