班決めからの数日、敦斗は元気のない日々を過ごしていた。そもそも幽霊に対して元気という言葉が正しいのかはわからないけれど、それでも目に見えて落ち込んでいる敦斗に対して美桜はどうしたらいいのかわからなかった。
 何かしてあげたいという気持ちと、何をしてあげたらいいのかわからないという気持ちがせめぎ合う。
 それでも元気のない敦斗を見ているのが辛くて、結局美桜は敦斗本人に尋ねることしかできなかった。
 学校からの帰り道、美桜は耳にイヤホンをつけると、敦斗に声をかけた。

「あの、さ」
「何?」
「何か、悩んでること、ある?」
「……どうして?」

 敦斗は「そんなことないよ」と言わんばかりにへらりと笑う。けれど全く楽しそうに見えない笑みに、美桜は敦斗の目をジッと見る。最初こそ美桜を見返してきていたけれど、瞳が揺れ、そして目を逸らした。

「何を悩んでいるのか、教えてくれないと私にはわからないよ」
「……だから、悩んでなんて」
「私じゃ頼りないかもしれないけれど、それでも敦斗の頼りになりたいって思ってるんだよ」
「美桜……」

 少し驚いたような表情で敦斗は美桜を見た。その表情があまりにも不安そうで美桜は心配になる。

「何か、あったの?」
「……何も」
「本当に?」
「うん。何もないんだ。俺には何も」

 半透明な自分の手のひらを掲げるとジッと見つめた。太陽に透けてしまう手を。何も触れることのできない手を。
 風が吹いて街路樹を揺らす。ついこの前まで桜が満開だった木々は、今では青々とした葉を茂らせている。もうすぐ夏が来る。
 太陽に自分の手をかざすと、敦斗は言った。
「仕方ないってわかってるんだけど、たまに無性に、怖くなる。ここにいる俺はいったい何なんだろう。本物の俺ってなんなんだろう。答えなんて出ないのに考え続けちゃう」
「敦斗……」

 敦斗は敦斗なりに苦しんでいる。人に触れることも目を合わすこともできない、この身体を、自分の存在を。何か、美桜にしてあげられることはないのだろうか。
 空を見上げる敦斗はどこかの工場から排出される煙をジッと見つめていた。まるでその煙の行き先を確認するかのように。そのまま消えてなくなってしまいそうで、不安にかき立てられる。

「敦斗!」
「え?」

 思わず呼びかけた美桜の言葉に、敦斗はようやく視線をこちらに向けた。

「どうしたの?」