美桜の問いかけに、少し考えるそぶりをしてから心春は言った。

「くだらねえことすんなよ、かな」

 凄い、その通りだよ。思わずそう言いそうになって、でもそんなこと言えなくて美桜は「っぽい」と小さく笑った。
 先に他の女子グループが報告に来ていたのでその後ろに心春と美桜が並ぶ。相変わらずざわついている教室で、心春は気まずそうな表情を浮かべて言った。

「さっきの、さ。前に敦斗に言われたんだ」
「え?」
「高校入ってすぐのオリエンテーション覚えてる? あれで班決めするときにさ外崎さんぼっちになってたでしょ」

 そういえばそんなこともあったような気がする。けれど別にハブにされていたわけではなく、美桜自身が誰とも組もうとしなかったのだ。けれどそう思っていたのは美桜だけで、他人から見ればハブられていると見えていたらしい。

「あのとき、別に私たちには関係ないし最終的に岡野が何とかするでしょって思ってたんだけど、そしたら敦斗が小さい声で「くだらねえことすんなよ」って言ってたの」
「敦斗が……?」

 そんな話、知らない。思わず空中を漂う敦斗を見るけれど、そっぽを向いたままこちらを見ることはなかった。

「そのあと敦斗が岡野に「入学したばっかで知らない人も多いから自由に組めと言われても難しいです」って言ってね、それで出席番号順に班を組むことに決まったの」
「私、そんなの知らなかった」

 美桜の言葉に、心春は寂しそうに微笑む。

「敦斗のいいところ、死んじゃう前に知ってあげてほしかったな」
「あ……っ」

 美桜が何か言おうとしたとき、前の子たちが報告を終え自分の席に戻っていく。心春は岡野に美桜を含めた六人の名前を伝え席に戻ろうとした。

「あ、あの。橋本君のこと……」
「……言わないよ」
「どうして?」
「私は、敦斗じゃないから」

 そう言われてしまうと、何も言えない。敦斗だからできた。美桜も心春も敦斗ではない。敦斗ではないけれど。

『敦斗が岡野に「入学したばっかで知らない人も多いから自由に組めと言われても難しいです」って言ってね、それで出席番号順に班を組むことに決まったの」』

 心春の言った言葉が脳裏を過る。敦斗はもういない。でも、敦斗に助けられた美桜はここにいる。

「せ、先生」
「ん?」