美桜から見ると心春は敦斗のことを好きなように思う。けれど当の本人である敦斗はそれに気づいていないのかも知れない。そうなるともっと早くに告白しておけば今頃はこんなふうに未練を残して漂うこともなかったのに、と思ってしまうと気の毒というかなんというか。

「なんだよ」
「別に」

 ジッと見ていたのに気づいたのか、敦斗は眉をひそめた。美桜は慌てて誤魔化すように前を向く。夕日が沈み始め、そろそろ日が暮れる。この時間に誰かとこんなふうに外を歩くのはいつぶりだろう。そうだ、あの頃――。

「前もさ、こうやって一緒に歩いたよな」
「え?」
「えってなんだよ。忘れたのか?」
「ち、違うよ。忘れてない」

 美桜が首を振り否定すると敦斗は「ホントか?」と疑わしそうな視線を向けた。忘れるわけがない。それどころか同じことを考えていた、とは恥ずかしくて言えなかった。
 あの頃、敦斗と二人で病院から歩いた道のりで見た夕焼け、今日の夕焼けはそれとよく似て見えた。
 もしもあのとき、何かが違っていれば今もこうやって二人並んで歩けていたのだろうか。そんなこと考えても仕方がないのについ想像してしまう。あの日、美桜が転んでいなければ、敦斗が祖母の死に間に合っていれば。もしかしたら違う未来が、あったのかもしれない、と。

「俺、なんで死んじまったんだろ」
「敦斗……」
「なんて、な。夕日見て感傷的になるなんて俺ヤバいな!」

 へらへらと笑う敦斗に美桜の胸は痛む。そんな顔で笑わないで。
 美桜は手のひらを握りしめると、敦斗に言った。

「私にできることなら何でもするから! 遠慮なく言ってね!」
「美桜?」
「そりゃ生き返らせることはできないけど、でも敦斗の未練、ちょっとでも晴らしてそれで……それで……」

 笑って逝って欲しいから。
 喉の奥まで出かけたその言葉はどうしても言うことができなかった。未練がなくなれば敦斗はいなくなる。わかっていたはずなのに、その事実がどうしようもなく辛かった。


 それから数日、美桜は敦斗がそばにいるということが意外はいつも通りの学校生活を送っていた。時折、授業中に美桜を笑わせようとしたり頭上から「その問題間違ってる」と指摘したりすることがあったけれど、それ以上は何もなかった。