「あー……そうだよ。前に食べたことがあって。でももう一回食べたいなってそう思ったんだよ。悪いか?」
「別に悪くはないけど」

 だったら最初からそう言えばよかったのに。美桜はそう思いながらクレープに口をつける。美桜の手のぬくもりで生クリームが少し溶けてしまった。
 敦斗は以前、これを誰と食べたのだろう。

「……にが」

 頬張ったところにコーヒーパウダーが固まっていたのか、口の中はほろ苦さでいっぱいになっていく。甘いはずなのに苦いティラミスのように、敦斗が今何を考えているのかもよくわからなかった。


 なんとなくわかってはいたけれど、限定クレープを食べても敦斗が成仏することはなかった。ただティラミスのクレープを美桜が食べて美味しかった、というだけだ。それでもショッピングモールからの帰り道、どこか敦斗がご機嫌だったからまあいいかと美桜は思うことにする。

「それで?」
「え?」

 美桜の隣を浮かぶ、というよりもはや歩くといった方が正しいのではないか。器用に地面すれすれで歩くようなそぶりで浮く敦斗に美桜は尋ねた。

「クレープの他には心当たりあるの?」
「うーん、そうだなー」

 腕を組み、考え込むようなポーズを取る。そして思いついたとばかりに敦斗は言った。

「遠足に行きたかった」
「遠足?」
「そう。来月親睦を深めるための遠足あるだろ。あれ」

 そういえばそんなものもあった気がする。美桜はおぼろげにしか覚えていない来月の予定をなんとか思い出す。たしか、隣の市にある大型のテーマパークに行く予定だった。それに行きたかった、と敦斗は言っているのだ。
 有り得なくは、ない。ないのだけれど、成仏できない未練だと言われると疑いたくもなる。けれど、本人が言うからにはきっとそうなのだろう。

「あのテーマパークにさジンクスがあるんだ」
「ジンクス?」

 敦斗がポツリと呟いた。敦斗は空を見上げ、遠くを見つめていた。その表情がなぜか寂しそうに見えた。

「そ。好きな奴と一緒に回ると両思いになれる、それから観覧車の中で告白すると上手く行くっていうのがさ。あ、べ、別に信じてるわけじゃないぞ。でもちょっとぐらい後押ししてもらいたいっていうか、なんというか。絶対に俺なんて好きになってもらえないってそう思ってたから、さ」
「そう、なの?」