まるで捨てられた犬のような目でこちらを見る敦斗に、ダメと言えるわけがなかった。それに、敦斗の心当たりを回るぐらいしか、美桜にできることはない。
「仕方ないなぁ」
「やった! んじゃ、今日行こうぜ」
「え? 今日?」
「善は急げって言うだろ」
未練を晴らす、というよりは楽しんでいるだけのような気がする。一瞬、脳裏に浮かんだ疑惑を美桜は慌てて振り払った。
その日の放課後、美桜は敦斗と一緒に駅にある大きなショッピングモールへとやってきた。ちなみにあのあとでの敦斗はというと、美桜の隣に浮かんだまま授業を受け、ときおり「ここが違う」とか「あの先生、絶対ズラだよな」とか話しかけてきて美桜は反応しないようにするのに必死だった。
「ねえ、授業中話しかけるのやめてよ」
敦斗が食べたかったと言うクレープ屋に向かう途中、美桜は隣でのんきに浮かぶ敦斗に文句を言う。
「えー。だって、俺暇なんだもん」
「私は暇じゃないの」
「そう、だよな……」
「あ……」
思わず言ってしまった言葉に、敦斗がしょんぼりとするのを見て美桜はしまったと口を押さえる。そうだ、敦斗は暇を潰すこともできないんだ。わかっているはずなのに、どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。
「あ、あの。ごめ――」
「まあ生きてるときも授業中は暇だったんだけどな」
「え?」
「あ、そうだ。ポルターガイストっていうの? 映画とかで幽霊がやるやつ。あれでさ山爺のズラ動かせないかな? 天井に浮かせてバレないようにこっそり戻すの。どう?」
世界史の担当教師である山本――通称山爺のカツラが空中に浮かぶシーンを思い浮かべて、美桜は盛大に噴き出した。そんな美桜を見て敦斗も笑う。気を遣わせてしまったことに気づき、美桜は胸が痛んだ。
敦斗の食べたがっていたクレープ屋はショッピングモールの中に少し前に開店した店だった。平日だというのにすでに何人も並んでいて、仕方なくその最後尾に美桜は並ぶ。こんなことがなければきっと来ることはなかったな、と思いながら敦斗を見ると、意外にも楽しそうに列を眺めていた。
「学食のときも思ったけど、こういうの並ぶの平気なタイプなんだね」
周りに聞こえないように小声で話しかける美桜に、敦斗はくしゃっとした笑顔で笑った。
「え? そんなことないけど?」
「だって楽しそうじゃん」
「仕方ないなぁ」
「やった! んじゃ、今日行こうぜ」
「え? 今日?」
「善は急げって言うだろ」
未練を晴らす、というよりは楽しんでいるだけのような気がする。一瞬、脳裏に浮かんだ疑惑を美桜は慌てて振り払った。
その日の放課後、美桜は敦斗と一緒に駅にある大きなショッピングモールへとやってきた。ちなみにあのあとでの敦斗はというと、美桜の隣に浮かんだまま授業を受け、ときおり「ここが違う」とか「あの先生、絶対ズラだよな」とか話しかけてきて美桜は反応しないようにするのに必死だった。
「ねえ、授業中話しかけるのやめてよ」
敦斗が食べたかったと言うクレープ屋に向かう途中、美桜は隣でのんきに浮かぶ敦斗に文句を言う。
「えー。だって、俺暇なんだもん」
「私は暇じゃないの」
「そう、だよな……」
「あ……」
思わず言ってしまった言葉に、敦斗がしょんぼりとするのを見て美桜はしまったと口を押さえる。そうだ、敦斗は暇を潰すこともできないんだ。わかっているはずなのに、どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。
「あ、あの。ごめ――」
「まあ生きてるときも授業中は暇だったんだけどな」
「え?」
「あ、そうだ。ポルターガイストっていうの? 映画とかで幽霊がやるやつ。あれでさ山爺のズラ動かせないかな? 天井に浮かせてバレないようにこっそり戻すの。どう?」
世界史の担当教師である山本――通称山爺のカツラが空中に浮かぶシーンを思い浮かべて、美桜は盛大に噴き出した。そんな美桜を見て敦斗も笑う。気を遣わせてしまったことに気づき、美桜は胸が痛んだ。
敦斗の食べたがっていたクレープ屋はショッピングモールの中に少し前に開店した店だった。平日だというのにすでに何人も並んでいて、仕方なくその最後尾に美桜は並ぶ。こんなことがなければきっと来ることはなかったな、と思いながら敦斗を見ると、意外にも楽しそうに列を眺めていた。
「学食のときも思ったけど、こういうの並ぶの平気なタイプなんだね」
周りに聞こえないように小声で話しかける美桜に、敦斗はくしゃっとした笑顔で笑った。
「え? そんなことないけど?」
「だって楽しそうじゃん」