美桜は味噌カツを一切れ口に入れる。ジューシーなのにカツがほのかに甘くて、食べた瞬間から次の一口が食べたくなる。がっつかないようにご飯を口に入れ、味噌汁を飲む。それからまた味噌カツを、と繰り返していると気づけば頭上で敦斗が笑っていた。

「……何」
「めっちゃ美味そうに食うなって思って」
「そりゃ、美味しいもん」

 そう、凄く美味しい。たしかにこれを食べたことないのは人生損してるのかもしれない。けれど、これを味わっているのは美桜だ。敦斗ではない。

「どうした?」
「……なんでもない」

 美桜が食べて本当に敦斗の未練が晴らされるのだろうか。そんな疑問を抱きながらも、気づけば美桜は月替わり定食を完食していた。

「いい食べっぷりだったなー」
「うるさい」
「あはは、ごめんごめん」

 学食から教室への帰り道、敦斗は当たり前のように美桜の隣で笑っている。なんとなくそんな気はしていたけれど、未練が晴れていないからか敦斗が成仏することはなかった。

「ねえ」
「ん?」
「ホントにあれば未練だったの?」
「あー今こうやって喋ってるってことは違ったってことだな。ごめん!」
「や、謝る必要はないんだけど」

 全く残念そうではない敦斗の言葉に、敦斗自身もこれが本当に未練だとは思っていなかったのではと考えてしまう。やはり、好きな子――心春に想いを伝えるまで敦斗の未練は晴れないのではないか。そんなことを歩きながら考えていると、敦斗が「そうだ!」と声を上げた。

「何か思いついたの?」
「駅前のショッピングモールの限定クレープ!」
「また限定?」
「うるせー。どうせ俺は限定って言葉に弱いですよーだ」

 拗ねたように言う敦斗が妙に可愛くてついつい笑ってしまう。廊下を歩きながら、突然一人で笑い出した美桜を、通りすがりの女子が怪訝そうな顔で見ていることに気づき、慌てて咳払いをする。

「ばーか」
「うるさい」

 ニヤニヤと笑う敦斗に、誰のせいで変な目で見られたと思っているのか、と美桜は恨みがましい視線を向ける。けれど、敦斗は気にもとめていないようで飄々とした表情を浮かべたまま話を続ける。

「学食じゃなければあそこしかない! 俺、一度でいいから食べてみたいって思ってたんだよな」
「ふーん」
「え、ダメ?」