「や、それでも学食には負けるって。なんと言っても月替わり定食がホント美味くて。四月は味噌カツ定食だったんだけど一日十食限定だから三回しか食べられなかったんだよな」
「それでも三回も食べたんだ」
「三月はうどん餃子、二月は――」
「ん? ちょっと待って?」

 美桜は敦斗の言葉に違和感を覚えて思わず言葉を遮った。

「一年生の敦斗がどうして二月三月の月替わり定食を知ってるの?」
「ああ、月替わり定食の争奪戦に参加してたら仲良くなった先輩がいて教えてくれた。ちなみに一番人気は七月のひつまぶし定食らしい」
「それは、美味しそうだけど」

 美桜の言葉に敦斗はニッと笑う。食い意地が張っていると思われるのが恥ずかしくて、美桜はそんな敦斗を無視して学食へと向かった。もうすでに食券売り場の前に列ができている。本当に買えるのだろうか。

「んー、よし。あれなら余裕でいけるな」
「ホント? でも、十人以上並んでるよ?」
「大丈夫。あの人はいつも唐揚げだし、あっちの先輩はうどんしか食べない」
「どんなに学食に通ってるの」

 呆れたように言う美桜に「週五!」と敦斗は自信満々に答えた。そして敦斗の読み通り、美桜の順番が来たとき月替わり定食はまだ売り切れになっていなかった。財布から五百円玉を取りだし食券機に入れる。ボタンを押すと、食券が落ちてくるのと同時に売り切れのランプが光った。

「最後の一個だった! あっぶない!」
「余裕って言ってたくせに」
「おっかしいなー、先輩今日唐揚げ買わなかったのかなー? まあいいじゃん、買えたんだし」

 美桜は学食の人に食券を渡し、できあがるのを待つ。

「この間に、席取っといた方がいいよ」
「あ、そっか」

 学食に不慣れな美桜は、敦斗に言われるままに席を取り、机の上にポケットに入れてあったハンカチを置くとできあがった月替わり定食を取りに行った。
 それは敦斗が食べたいというだけあって、確かに美味しそうだった。肉厚のとんかつに鼻腔をくすぐる甘辛い味噌だれ、味噌汁とサラダまでついて五百円は破格だと思う。

「な? 美味そうだろ?」
「うん」
「早く食えよ」
「……いただきます」