学校に着き、美桜はいつものように教室に向かう。ドアを開けようとしたとき、ふち手を止めた。不安に思って敦斗を見上げるけれど、敦斗はそっと微笑んだ。

「心配してくれてるの? ありがと」

 辺りに誰もいないのを確認にしてから、美桜は口を開いた。

「本当にいいの? だって、中には」
「大丈夫だって。わかってて来たんだから」

 敦斗の言葉に頷くと、美桜はそっとドアを開けた。一瞬、教室の視線がこちらに向けられ、美桜の姿を見て視線を戻す。いつも通りのB組の教室に、いつも通りではないものが一つ。いつもなら率先して賑わしている敦斗の姿がなく、代わりに机の上には花瓶に入った花があった。敦斗はショックを受けていないだろうか。大丈夫だと言っていたけれど、実際に見るのと想像するのでは違う。美桜は自分のことのように胸がキュッと痛んだ。でもそんな美桜を尻目に、敦斗は当たり前のように教室に入っていく。

「へー、こういうのって漫画の中だけかと思ったけど本当に置かれるだ。なあなあ、これ置いたの誰だと思う? やっぱり岡野かな?」

 気にしているのは美桜だけで、当の本人は全く気にしていない様子で花瓶に生けられた花を興味深そうに見ていた。
 美桜はふと気になり、心春の姿を探したけれど教室の中にはいないようだった。もしかすると休んでいるのかも知れない。美桜は敦斗が亡くなったと知らされた日の心春の様子を思い出しながら思う。もしかすると、心春も敦斗のことが好きだったのかも知れない、と。であればやはり伝えてあげたい。敦斗が心春のことを好きだったことを。でも、今の美桜が伝えたところで信じてもらえるとは思わない。
 重い気持ちを抱えたまま美桜は自分の席に着く。結局、心春は二時間目の途中からやってきた。友人達に囲まれ、苦しそうな表情を浮かべる心春。その姿を見ながら、美桜にできることはなんだろうと美桜はそればかり考え続ける。
 けれど、結局答えが出ることはなく、いつの間にか昼休みになっていた。
 普段は購買のパンを買って、教室か目立たない中庭の隅で食べていた美桜だけれど、今日は敦斗の言っていた通り学食へと向かった。

「そういえば私、学食って行ったことないかも」
「マジで? え、絶対人生損してるよ」
「損って……」

 そこまで言われるほどだとは思わないけれど。

「購買のパンも美味しいよ」