美桜は必死に首を振る。違う。全て美桜が悪くて、敦斗は悪くない。美桜のせいなのだからそんな風に敦斗は苦しまなくていい。そう伝えたいのに何か喋れば涙が溢れそうで言葉にできない。「でも」と、敦斗は話を続けた。

「本当はずっとわかってた。あのときの美桜の言葉が俺のためだったんだって。少しでも早く俺を病院に行かせたくてわざとああいう言い方をしたんだって。それに美桜がいなければきっと俺は死ぬまでばあちゃんのところにも行かなかった。逃げていた俺を助けてくれたのは引っ張っていってくれたのは美桜なのに……ごめんな」
「違う……違うよ……」
「違わない。美桜のおかげで俺は死ぬ前にばあちゃんと会えた。あの日々があったからこそ、ばあちゃんの死を受け止めることができた……。ありがとう、美桜。伝えるのが遅くなって、ごめんな」

 もう限界だった。美桜の目からは次から次に涙が溢れてくる。近くを歩く人が怪訝そうな顔をしているのが見えたけれど、そんなこと構っていられなかった。泣きじゃくる美桜の隣で、敦斗は話を続ける。

「本当は死ぬ前に伝えられたらよかったんだけど、俺バカだからさ。わかっていても、どうしても向き合えなくて。今までずっと逃げてた。向き合うことからもちゃんと理解することからも逃げてて。結局、あの頃の俺から何一つ変わってなくて」
「そんな、こと……」
「でも死んで今度こそ本当に終わりなんだと思ったらちゃんと言葉にしなきゃってやっと思えたんだ。苦しませてごめん。それから、あの日俺のためにありがとう」

 美桜は涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭いながら必死で考える。「ありがとう」でも「ごめんね」でもなく、こういうときになんと伝えればいいのかわからない。美桜がもらった優しさを敦斗に返したい。だから……。美桜は敦斗を見上げると、涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭い、そして口を開いた。

「私、頑張る」
「え?」
「ちゃんとの細村の――敦斗の未練を晴らして、それでちゃんと天国に行ってもらえるように頑張る」
「……さんきゅ」

 敦斗は一瞬泣きそうな表情を浮かべたあと、くしゃっと笑った。その笑顔は、いつか見たものと同じで、三年ぶりに敦斗と向かい合えたような、そんな気がした。