「美桜?」
「ずっと謝りたかった。私のせいで、おばあさんの大切な最期の瞬間に間に合わなかったって聞いて……それがどんなに大事なのか、知ってたのに……ごめんなさい……」

 言ってしまった。ううん、ようやく言えた。頭を下げたままの美桜からは敦斗がどんな表情をしているのかわからない。でもそれでも、もう逃げたくはなかった。
 敦斗は黙ったままだった。けれどしばらくして、敦斗はポツリと言った。

「間に合わなかったのは、美桜のせいじゃないよ」
「でも私が転ばなければ!」
「……転んでなかったとしても、きっと間に合わなかったから」
「どういうこと?」

 敦斗は寂しそうに微笑むと「とりあえず歩こうか」と美桜を促した。辺りにはポツポツと人がいて、美桜の方を怪訝そうな表情で見ている人もいた。端から見たら誰もいない空間に頭を下げている美桜の姿はさぞ滑稽に映っただろう。
 もう一度「ね?」と言う敦斗に頷いて美桜は歩き始める。そして辺りに聞こえないぐらいの小声で敦斗に尋ねた。

「間に合わなかったって、どうして?」
「……普通さ、ああいうときって誰かが迎えに来るでしょ」

 ああいうとき、というのがおばあさんが危篤だという連絡を受けたときだというのは想像に難くない。言われてみればそうかもしれない。あのときは、学校と病院の距離が近かったから特に違和感はなかったし、それよりも早く行かなければという思いでいっぱいだったからそこまで考える余裕はなかった。けれどたしかに普通であれば親か親戚、誰かが迎えに来てもおかしくはない。

「あの日さ、ばあちゃん急に具合が悪くなって数値が落ち始めてからあっという間に――。だから俺を誰かが迎えに行く余裕なんてなかったんだって。だから、美桜のことがあってもなくてもきっと間に合わなかった」
「そん、な」
「……でも、さ今だからこうやって言えるけど当時はそんなふうに全然思えなくて。あの日、美桜に言われたことも相まってずっと美桜のことを恨んでた。あのとき、美桜のところに戻らなければよかった。美桜と一緒に行かなければよかった。そうやって美桜を恨むことでしか間に合わなかった悔しさや申し訳なさを誤魔化すことができなかった」