学校に行く美桜の隣を敦斗は浮かんだままついてくる。いつも通っている道なのにそこを敦斗と歩いているというのは不思議な感じだ。そっと敦斗の方を見て見ると、キョロキョロしながら進んでいる。

「どうしたの?」
「ん? いや、視界がいつもより高いからさ、なんか見えるものが違うなって」
「何が見えるの?」
「屋根の上に猫がいるなーとか、美桜の髪が跳ねてるなとか」
「嘘!」
「ホントだよ」

 慌てて頭を押さえる美桜を敦斗はおかしそうに笑った。
 なんだか調子が狂う。こんなふうに敦斗と話をする日が来るなんてあの頃は思ってもみなかった。けれど、敦斗が普通に接してくれるからこそ余計におばあさんの件がまるで小骨のように喉の奥に引っかかっている。
 このまま何もなかったかのように隣にいるのは、どうしても気持ちが悪い。それなら怒られてもなじられてもいいから一度きちんと謝ってしまいたい。自己満足だって言われても仕方ないけれど、それでも美桜は敦斗に謝りたいのだ。

「細村」
「ん?」
「あのね」

 言いかけて、美桜は立ち止まる。もしも自分が言うことで敦斗に再び嫌な思いをさせてしまったらどうしよう。嫌な思い出をよみがえらせてしまったら。……こんなふうに話してくれなくなったら――。

「は……」

 自分自身の考えに辟易する。結局、敦斗に謝りたいとか思っておきながら自分のことしか考えていない。そんな自分、大っ嫌いなのに。結局、あの頃から美桜は何一つ変わっていない。自己保身しか考えられず、傷ついた敦斗の上にあぐらを掻いて生きている。敦斗は死んでしまったというのに。
 このまま敦斗が成仏してしまえば、今度こそ本当に謝ることはできなくなる。明日言おう、明後日言おうと思ったところで、そんな日が必ず来るとは限らない。
 美桜は覚悟を決めると小さく息を吸い、敦斗の顔を見つめた。

「あの、ね」

 どんなに苦しかろうが言わなければいけない。

「わた、し……」

 けれどそんな美桜の前に浮かぶと、敦斗は優しく微笑んだ。

「無理して言わなくてもいいよ」
「……ううん、ダメなの。私、ちゃんと細村に謝りたい」

 例え、許してもらえなかったとしても。今度こそ逃げたくない。美桜は手のひらを握りしめると、敦斗の目を真っ直ぐに見た。

「あのね……細村の、おばあさんのことなんだけど……。本当にごめんなさい!」