翌日、目覚めた美桜はべとついた身体を何とかするべくシャワーに向かった。昨日は結局、ご飯を食べることもシャワーを浴びることもなく眠ってしまっていた。葬式に行って帰ってきただけ、にしてはやけに憑かれたもとい疲れた一日だった。
 敦斗はおそらく敬一の部屋にいるはずだ。美桜は自分の部屋を通り過ぎ、廊下の奥にある敬一の部屋の前に立つ。
 昨日見た夢のせいだろうか。胸の奥が重く苦しい。そういえば夢の終わりに今の敦斗と話をした気がする。あれはなんだったのだろう。寝ぼけていたの、だろうか。都合のいい夢だ。自分のしたことを棚に上げて、敦斗が全て許してくれるだなんて。
 美桜は下唇を噛みしめると、顔を上げた。とにかく敦斗の未練を一日も早く晴らそう。そうすれば敦斗は成仏できるのだ。美桜がしたことを許してもらえようがもらえまいが、美桜が敦斗にできることは、もうそれしかないのだから。

「細村、いい?」

 敬一の部屋のドアをノックすると、美桜は開ける前に声をかけた。中からは「いいよ」という敦斗の声が聞こえてくる。恐る恐るドアを開けると、そこにはベッドの上に座るように浮かぶ敦斗の姿があった。

「おはよう」
「おはよ。昨日はよく眠れた?」
「え、あ、うん」

 答える美桜を敦斗はジッと見つめる。何か言いたいことがあるのだろうか。そう疑問に思うより先に「ならよかった」と敦斗は笑顔を浮かべる。さっきの表情はいったいなんだったのだろう。そう思いつつも美桜は敦斗に尋ね返す。

「そっちは?」
「ん、大丈夫。ぐっすり眠れたよ」

 幽霊、というのは眠るのか、と美桜は少し驚きながらも浮いたまま寝たことの感想を伝える敦斗に笑ってしまいそうになる。

「浮いてるってことはベッドから落ちる心配がないってことだからいいよな」
「ベッドから落ちたことあるの?」
「俺、寝相悪すぎてしょっちゅうベッドから落ちるからベッドの下に布団を置かれてた」
「それってもうベッドじゃなくて布団で寝ればいいんじゃあ」

 呆れたようにいう美桜に敦斗は「そういう問題じゃないんだよ」と唇を尖らせる。その姿が妙に幼く見えて、三年前の敦斗と重なる。学ランはブレザーになり、あの頃よりも随分と身長は伸びたけれど、面影が残っていることになぜか嬉しくなった。