「岡野が私にやらせるように、だって」
「やってないじゃん」
「学校来てなかったから習ってないもん」
「ふーん」
そう言いながら敦斗は相生の椅子を引っ張ってきて机の前に座る。ちなみに鉛筆もさりげなく相生の机の上から拝借していた。何のつもりだろう。
「この問題だけどさ、まず文字と数字の位置を揃えるために移項するんだよ。イコールの左が文字、右が数字な」
「え、何?」
「何って教えてやってんだけど」
「……いいの?」
「まあ、同小のよしみってやつで」
そのまま敦斗は二問目三問目とわかりやすく教えてくれる。おかげで基礎問題は問題なく解き終わることができた。応用問題に移ろうとしたときに、敦斗はぽつりと言った。
「なあ、最近病院行った?」
「え?」
どういう意味だろう。風邪や病気で休んでいたわけじゃないことは敦斗も知っているだろう。なのに、どうして。
……もしかして。
美桜は一つの可能性に思い当たった。
「……行ってない。そっちは?」
「……俺も、行ってない」
「どうして?」
「……怖くて」
敦斗の気持ちがほんの少しだけ、わかる気がした。
美桜も、おばあさんに会いに行きたい気持ちと会うのが怖い気持ちどちらも持っている。敦斗も同じなのかも知れない・
「……今日、行くつもりだよ」
「そっか」
美桜が最後の一問を解き終わったのを見ると、敦斗は席を立った。元の場所に椅子をもどしてから敦斗は小さな声で言った。
「どうだったか、教えて」
それだけ言うと敦斗は保健室を出て行った。入れ替わるように戻ってきた相生が、美桜の前に置いたプリントを見て「できてる……」と驚いたような声を出していた。
その日の午後、五時間目終了のチャイムが鳴り終わると同時に美桜は保健室を飛び出した。数日ぶりに行く病院に早る気持ちを抑えきれない。
美桜は病院に着くと、おばあさんの病室へと向かった。
家族の許可が出ているから、と病院の人は美桜をおばあさんの病室に入れてくれた。おばあさんは真っ白の部屋の中でたくさんの機械に繋がれたまま眠っていた。時折、呻くような声が聞こえ慌てて顔を見るけれど目を覚ますことはなかった。
「おばあさん……」
「……ちゃ」
「え?」
その日も、いつものように病院に来ていた美桜はおばあさんの口元が動いたことに気づいた。今、何か言った?
「やってないじゃん」
「学校来てなかったから習ってないもん」
「ふーん」
そう言いながら敦斗は相生の椅子を引っ張ってきて机の前に座る。ちなみに鉛筆もさりげなく相生の机の上から拝借していた。何のつもりだろう。
「この問題だけどさ、まず文字と数字の位置を揃えるために移項するんだよ。イコールの左が文字、右が数字な」
「え、何?」
「何って教えてやってんだけど」
「……いいの?」
「まあ、同小のよしみってやつで」
そのまま敦斗は二問目三問目とわかりやすく教えてくれる。おかげで基礎問題は問題なく解き終わることができた。応用問題に移ろうとしたときに、敦斗はぽつりと言った。
「なあ、最近病院行った?」
「え?」
どういう意味だろう。風邪や病気で休んでいたわけじゃないことは敦斗も知っているだろう。なのに、どうして。
……もしかして。
美桜は一つの可能性に思い当たった。
「……行ってない。そっちは?」
「……俺も、行ってない」
「どうして?」
「……怖くて」
敦斗の気持ちがほんの少しだけ、わかる気がした。
美桜も、おばあさんに会いに行きたい気持ちと会うのが怖い気持ちどちらも持っている。敦斗も同じなのかも知れない・
「……今日、行くつもりだよ」
「そっか」
美桜が最後の一問を解き終わったのを見ると、敦斗は席を立った。元の場所に椅子をもどしてから敦斗は小さな声で言った。
「どうだったか、教えて」
それだけ言うと敦斗は保健室を出て行った。入れ替わるように戻ってきた相生が、美桜の前に置いたプリントを見て「できてる……」と驚いたような声を出していた。
その日の午後、五時間目終了のチャイムが鳴り終わると同時に美桜は保健室を飛び出した。数日ぶりに行く病院に早る気持ちを抑えきれない。
美桜は病院に着くと、おばあさんの病室へと向かった。
家族の許可が出ているから、と病院の人は美桜をおばあさんの病室に入れてくれた。おばあさんは真っ白の部屋の中でたくさんの機械に繋がれたまま眠っていた。時折、呻くような声が聞こえ慌てて顔を見るけれど目を覚ますことはなかった。
「おばあさん……」
「……ちゃ」
「え?」
その日も、いつものように病院に来ていた美桜はおばあさんの口元が動いたことに気づいた。今、何か言った?