相生は優しく微笑むけれど、そんなのどうだっていい。とにかく学校まで来られたんだ。あとはここで放課後まで時間を潰せばいい。
 時計を見ると十一時を過ぎた頃だった。今日は水曜だから五時間目までの日だ。六時間じゃなくてよかった。これなら三時には学校を出て三時半にはおばあさんのところに行ける。
 相生はまだ何か美桜に話しかけていたが、美桜の耳に届いていないことがわかるとため息を吐いて立ち上がる。そして机の引き出しを明けると、中から何枚かのプリントを取り出した。

「これ。岡野の先生から預かってたの。もしもあなたが来たらさせてほしいって」

 と、言われても。プリントに目を通すけれどどうやら美桜が休み始めてからの授業内容のようで、学校に行っていないのだからわかるわけがない。
 とりあえずやっているふりだけでもしておこうかとプリントを見続けたまま午前中が終わった。

「せんせー、絆創膏ください」

 五時間目が始まってしばらく経ってから、聞き覚えのある声が保健室に入ってきた。振り返るとそこにいたのは予想通り敦斗だった。
 どうしたのか、と聞くよりも膝から出ている血が目に入る。

「なっ」
「あれ? 外崎じゃん。何やってんだよ、こんなとこで」
「……別に。細村こそ、その足どうしたの?」
「ああ、体育でサッカーやってたんだけど転んじまって。絆創膏貰いに来たんだけど、先生は?」

 保健室を見回してようやく相生がいないことに気づいたらしい。ちなみに相生は少し前に電話がかかってきたとかで職員室に行ってしまった。そのことを敦斗に伝えると、困ったように頭をかいた。

「なあ、絆創膏どこにあるか知らねえ?」
「その辺の棚の中じゃないかな」

 美桜は棚を開けるとそこから大きめの絆創膏と消毒液、脱脂綿を取り出した。

「自分でする?」
「頼んでもいい?」
「わかった」

 脱脂綿に消毒液を含ませると、傷口を消毒していく。水洗いをしたあとなのか、傷口には砂利は混ざっていないようで安心する。最後に絆創膏を貼ればできあがりだ。

「終わったよ」
「手際いいな」
「別に普通だよ」

 絆創膏越しに患部を叩くと「んぎゃっ」と敦斗は飛び上がった。その姿がおかしくてつい笑ってしまう。そんな美桜を尻目に、敦斗は机の上に置かれたままのプリントに視線を向けた。

「何、これ」