オペレーターに必要なことを伝え、美桜は再びおばあさんの元へと戻る。先程よりも青い顔は苦しそうに歪んでいる。どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 遠くから聞こえてくるサイレンの音。美桜は必死におばあさんの手を握り続けた。


 おばあさんの家族の人が駆けつけるまでの間、美桜は一人薄暗い廊下で膝を抱えていた。おばあさんの容態やこれからのことは他人の美桜には話せないとのことだった。ただ美桜があまりに不安そうだったからか「君が救急車を呼んでくれたおかげで一命は取り留めたよ」と白衣の医者が美桜に言ってくれて、涙が出るほど安心した。
 どれぐらいそうしていただろう。足音が聞こえ美桜は顔を上げた。息を切らせて駆けつけたのは、見覚えのある人だった。誰だったっけ、と美桜が考えていると後ろから歩いてきた男子が「外崎?」と美桜を呼んだ。

「細村君?」
「なんでお前がここに」
「知り合いのおばあさんが倒れたから救急車に乗ってきたの」
「……マジかよ」

 敦斗は頭を抱えるとぽつりと呟いた。

「それ、うちのばあちゃんだ」
「え?」

 一瞬、敦斗の言葉の意味が理解できなかった。けれどそう思うと先程の女性は小学校の時、参観日に見た敦斗の母親に似ていた気がする。そう、だったのか。
 そういえばおばあさんが美桜と同い年の孫がいると言っていた。けれどそれが敦斗だったなんて。

「おばあさん、病気なの……?」
「わかんねえ……」
「あっちゃん! 早く!」
「あっ。悪い、じゃあな」

 病室から敦斗の母親が呼ぶ声が聞こえ、敦斗は慌ててそちらに向かった。
 帰ろう。このままここにいても、他人である美桜にはおばあさんと会う術がない。重い身体を引きずるようにして歩き出す。そんな美桜の背中に誰かが声をかけた。

「待って!」
「え?」

 そこには病室の中にいたはずの敦斗の母親の姿があった。その人は美桜の元に駆け寄ると頭を下げた。

「あなたが救急車を呼んでくれたって……。ありがとう。敦斗の、同級生だって聞いたわ」
「いえ。その……おばあさんは、大丈夫なんですか?」
「……一命は取り留めたけど、もう長くはないだろうって。もう末期で手遅れだって……」
「そんな……」