小さい頃「お兄ちゃんは勉強と私どっちが好きなの!」と尋ねたときに同じ表情をしていたのを覚えている。冷たくなったと、感じ悪くなったと思っていたけれど、もしかすると昔とそう変わらないのかも知れないと美桜は思った。
「……わかった」
「お兄ちゃん!」
「ただし、さっき美桜も言っていた通り猶予だよ。ずっとこのままがよくないのは自分でもわかってるだろ? この先どうするのかきちんと自分で決めるんだ。母さんに連絡するのはそれからにするよ」
「猶予って、いつまで?」
敬一は少し考えるそぶりをしてから指を一本立てた。
「一ヶ月。それ以上は僕も母さんを誤魔化せられない」
「……わかった」
一ヶ月で何かが変わるのか今の美桜にはわからない。このまま学校に行かない生活ができるなんて思っていなかった。でも、一度休むと次に学校に行こうとするのに休まず毎日行っていたときの何倍も勇気がいる。学校のことを思い出すだけで心臓が苦しくなる。
敬一は一ヶ月と言っていたけれど、こんな状態で本当に1ヶ月後学校に行けるのだろうか。いや、行かなければいけない。そうじゃなきゃ今度こそ本当に敬一は母親に言うだろう。そうすれば母親は美桜のことを軽蔑するかも知れない。迷惑をかけないでと呆れるかもしれない。それはどうしても嫌だった。
「どうしたらいいんだろう」
敬一との話が終わり、電車の時間があるからと家を出た敬一を見送ったあと美桜も家を出た。
重いため息を吐きながら美桜はいつものように公園に向かう。すでにおばあさんは来ていたようで、ベンチに座っているのが見えた。
「おばあさん」と声をかけようとして、様子がおかしいことに気づいた。慌てて駆け寄ると、おばあさんは胸を押さえたまま青白い顔で俯いていた。
「おばあさん!? 大丈夫!?」
「うっ……あっ……」
「きゅ、救急車!!」
スマホを持っていない美桜は公園の隅にある今は使われていない公衆電話へと走った。たしか、公衆電話にはお金を入れなくてもかけられる機能があったはず。随分前に授業で防災について学んだときに先生が言っていたことを必死に思い出す。どこかに何かのボタンがあったはず――。
「これだ!」
電話機の下にある赤い丸いボタン、それを押すと美桜は震える指先で『119』と押した。
「おばあさん! すぐに救急車、来てくれるからね!」
「……わかった」
「お兄ちゃん!」
「ただし、さっき美桜も言っていた通り猶予だよ。ずっとこのままがよくないのは自分でもわかってるだろ? この先どうするのかきちんと自分で決めるんだ。母さんに連絡するのはそれからにするよ」
「猶予って、いつまで?」
敬一は少し考えるそぶりをしてから指を一本立てた。
「一ヶ月。それ以上は僕も母さんを誤魔化せられない」
「……わかった」
一ヶ月で何かが変わるのか今の美桜にはわからない。このまま学校に行かない生活ができるなんて思っていなかった。でも、一度休むと次に学校に行こうとするのに休まず毎日行っていたときの何倍も勇気がいる。学校のことを思い出すだけで心臓が苦しくなる。
敬一は一ヶ月と言っていたけれど、こんな状態で本当に1ヶ月後学校に行けるのだろうか。いや、行かなければいけない。そうじゃなきゃ今度こそ本当に敬一は母親に言うだろう。そうすれば母親は美桜のことを軽蔑するかも知れない。迷惑をかけないでと呆れるかもしれない。それはどうしても嫌だった。
「どうしたらいいんだろう」
敬一との話が終わり、電車の時間があるからと家を出た敬一を見送ったあと美桜も家を出た。
重いため息を吐きながら美桜はいつものように公園に向かう。すでにおばあさんは来ていたようで、ベンチに座っているのが見えた。
「おばあさん」と声をかけようとして、様子がおかしいことに気づいた。慌てて駆け寄ると、おばあさんは胸を押さえたまま青白い顔で俯いていた。
「おばあさん!? 大丈夫!?」
「うっ……あっ……」
「きゅ、救急車!!」
スマホを持っていない美桜は公園の隅にある今は使われていない公衆電話へと走った。たしか、公衆電話にはお金を入れなくてもかけられる機能があったはず。随分前に授業で防災について学んだときに先生が言っていたことを必死に思い出す。どこかに何かのボタンがあったはず――。
「これだ!」
電話機の下にある赤い丸いボタン、それを押すと美桜は震える指先で『119』と押した。
「おばあさん! すぐに救急車、来てくれるからね!」