そして受話器を持ったまま敬一の視線は美桜へと向けられた。口パクで「動くな」と言われてしまえば逃げ出すこともできない。仕方なくソファーに座った美桜に、電話を終え戻ってきた敬一が冷たい声で言った。
「お前、学校行ってなかったのか?」
ああ、ついにバレてしまった。欠席連絡を入れてなかったのに今までバレなかったのが奇跡だったのだ。
固定電話に入っていた留守電は敬一に気づかれる前に消していたし母親に連絡をしようにも学校への連絡票に固定電話の番号しか書いていないことを美桜は知っていた。学校からの連絡に煩わされたくなかったのか、それとも他に何か理由があるのかは知らないけれど、美桜にとっては好都合だった。なのに、こんなに朝早く電話をしてくるとは想定外だった。
「どうなんだ」
黙ったままの美桜に、敬一は苛立ったような声を出す。仕方なく「うん」と頷けば、敬一は深いため息を吐き美桜の向かいに座った。苛立ったように足を揺すったあと、膝に両肘を置き頭を抱え込んだ。
「どうして……」
「居場所が、ないから」
「居場所がないって……まだ一学期の件を引きずってんのか? きっともう嫌なこと言ってきた子たちだってお前に言ったことなんて忘れてるよ」
「それでも! 言われた私は忘れてないよ!」
「美桜……」
悲痛な叫びに、ようやく敬一は顔を上げた。その表情に苛立ちはなく、ただただ美桜を心配しているようだった。
「それじゃあ、これからどうするんだ? クラス替えがある来年まで学校に行かないつもりなのか?」
「それ、は」
「ない」と否定することも「そのつもりだ」と肯定することもできなかった。カチカチと時計の音が部屋に響く。無言のまま美桜を見つめる敬一に、頭を下げた。
「少しだけ、猶予がほしい。今はまだどうするとかどうしたいとかそんなこと言えないけど、でも今は……まだ学校に行くのは、怖い」
「美桜……」
敬一は眉間に皺を寄せ親指と人差し指で摘まむように挟むと目を閉じた。何かに悩んだときの敬一の癖だ。優等生で真っ直ぐに育ってきた敬一にとって、きっと美桜の不登校というのは受け入れがたいのだろう。それでもなんとか理解しようと悩んでくれている敬一に、幼い頃の面影を見つけた気がする。
「お前、学校行ってなかったのか?」
ああ、ついにバレてしまった。欠席連絡を入れてなかったのに今までバレなかったのが奇跡だったのだ。
固定電話に入っていた留守電は敬一に気づかれる前に消していたし母親に連絡をしようにも学校への連絡票に固定電話の番号しか書いていないことを美桜は知っていた。学校からの連絡に煩わされたくなかったのか、それとも他に何か理由があるのかは知らないけれど、美桜にとっては好都合だった。なのに、こんなに朝早く電話をしてくるとは想定外だった。
「どうなんだ」
黙ったままの美桜に、敬一は苛立ったような声を出す。仕方なく「うん」と頷けば、敬一は深いため息を吐き美桜の向かいに座った。苛立ったように足を揺すったあと、膝に両肘を置き頭を抱え込んだ。
「どうして……」
「居場所が、ないから」
「居場所がないって……まだ一学期の件を引きずってんのか? きっともう嫌なこと言ってきた子たちだってお前に言ったことなんて忘れてるよ」
「それでも! 言われた私は忘れてないよ!」
「美桜……」
悲痛な叫びに、ようやく敬一は顔を上げた。その表情に苛立ちはなく、ただただ美桜を心配しているようだった。
「それじゃあ、これからどうするんだ? クラス替えがある来年まで学校に行かないつもりなのか?」
「それ、は」
「ない」と否定することも「そのつもりだ」と肯定することもできなかった。カチカチと時計の音が部屋に響く。無言のまま美桜を見つめる敬一に、頭を下げた。
「少しだけ、猶予がほしい。今はまだどうするとかどうしたいとかそんなこと言えないけど、でも今は……まだ学校に行くのは、怖い」
「美桜……」
敬一は眉間に皺を寄せ親指と人差し指で摘まむように挟むと目を閉じた。何かに悩んだときの敬一の癖だ。優等生で真っ直ぐに育ってきた敬一にとって、きっと美桜の不登校というのは受け入れがたいのだろう。それでもなんとか理解しようと悩んでくれている敬一に、幼い頃の面影を見つけた気がする。