敦斗に敬一の部屋を案内してから美桜は一人で部屋に戻る。ベッドに寝転がって目を閉じると瞼の裏に敦斗の姿が映った。しかしそれは今の敦斗ではなく、十三歳の頃の、今から三年前のまだ少し幼さの残る敦斗の姿だった。
 
 美桜と敦斗の通う中学は三つの小学校が合わさってできていた。一番人数の多い南小、敦斗と美桜のいた東小、そして西小だ。二クラスしかなかった小学校時代とは違い一気に六クラスに増えた。人が増えるということはそれだけもめ事も増える。
 始まりはほんの些細なことだった。クラスのリーダー格の子が好きな男子が美桜に優しくしたとかそんなくだらないこと。しかしそれがきっかけで美桜はクラスの女子から無視されるようになった。それを男子達が咎めるから余計に反感をかってしまう。
 それでも夏休みまでは頑張った。自分自身を奮い立たせて必死に学校に通った。けれど夏休みが終わり二学期が始まったとき、美桜は中学校に行けなくなっていた。
  
 とはいえ、家にいると敬一に心配される。高校は中学よりも始まるのが遅いからと、美桜が家を出る時間、敬一はまだ家にいるのだ。仕方なく学校に行くふりをしてだいたいは近くの公園で時間を潰し、お昼になる前に自宅へと戻る。お昼ご飯は炊飯器のご飯で卵かけご飯を作ったりおにぎりを作ったりして食べた。一人で食べるご飯は寂しかったけれど、ひそひそと陰口を言われ、いないふりをされる教室で食べるよりは何百倍も美味しかった。

 そんな生活を一週間ほど送っていたある日、美桜は公園で見知らぬおばあさんと出会った。ベンチに座る美桜の隣にいつの間にか腰をかけ、足下に寄ってくる猫に餌をあげる。お昼になって美桜が帰ろうと立ち上がるとその人も立ち上がりどこかに去って行く。最初は偶然だと思っていた。でも来る日も来る日もその人は美桜の隣に座りニコニコと餌をあげている。その人がいなければ子どもだけで平日の昼間に制服姿で公園に一人でいた美桜は警察に補導されていても不思議じゃなかった。それに気づいたのは、もっとあとになってからだったけれど。
 
 その日もおばあさんは足下に寄ってきた猫たちに餌をあげている。おばあさんの姿を見ると近寄ってくるところを見るに、餌をくれる人と認識しているのだと思う。おばあさんは何も言わない。けれどその沈黙が逆に苦しい。耐えきれず美桜は尋ねた。