「今日で俺が死んだ日から数えて三日目だろ。人があの世に行くまでにかかる日数が四十九日。だから俺がこの世にいられるのもあと四十六日ってわけ」
「よく知ってるね」
「ああ。ばあちゃんのときに嫌ってほど調べたから」
「……そっか」

 あのときのことを思い出すと今も胸の奥がじくじくと痛くなる。それは敦斗も同じようで二人して黙り込んでしまう。今もお互いに癒えることのない心の傷。思い出すことすら辛くて蓋をした。その傷を、敦斗と二人でいると思い出してしまう。
 黙り込んだ美桜に敦斗は両手を合わせた。

「まあ、ってことで頼むよ」
「……仕方ないなぁ」
「さんきゅ」

 敦斗は白い歯を見せてニッと笑う。こんなふうに笑いかけられるのは久しぶりで戸惑ってしまう。けれど動揺を悟られたくなくて、歩調を速めた。
 自宅に帰ると当たり前のように敦斗はついてくる。部屋にも入ってこようとしたので美桜は慌てて振り返った。

「いいって言うまで入ってこないで」
「なんで?」
「着替えるからに決まってるでしょ!」

 美桜の言葉にようやく思い至ったのか鼻を掻きながら「わかったよ」と言うと敦斗はドアに背を向けた。久しぶりに大きな声を出したので喉が変な感じだ。
 制服を脱ぎ私服に着替える。薄手のニットワンピにパンツを合わせると自分の姿を見下ろした。こういう時に姿見があるといいのだろうけれど、生憎そんなものは美桜の部屋にはなかった。変では、ないだろう。そう思ってから、自分の考えに笑ってしまう。変だろうが変じゃなかろうがどうでもいいじゃない。敦斗に見られるだけなのだから。
 小さく頷いてからドアを開けた。そこには浮かんだままかたくなに背を向けた敦斗の姿があった。

「もう大丈夫だよ」
「お、私服久しぶりに見た。似合ってんじゃん」
「別にあんたに褒められても嬉しくないよ」
「可愛げねえな」

 ぷかぷかと浮いたままの敦斗をベッドの上に座り見上げる。なんとなく、この位置関係は気に食わない。

「ねえ、浮いてないでその辺に座ってよ」
「なんで?」
「見下ろされてるみたいでやだ」

「なんだそれ」と笑いながら敦斗は勉強机の椅子に座る。自分の部屋だというのに他人がいるというだけで妙に落ち着かない。辺りをキョロキョロと見回す敦斗を美桜は咎める。

「勝手に見ないで」
「いいだろ、別に。あ、これ俺も読んでる。面白いよな」