1年B組の教室の前から三番目、窓際の席。そこが外崎(とざき)美桜(みお)の席だった。休み時間ということもあり、教卓の周りに集まった男女が何かを楽しそうに話している。話題の中心にいるのは細村(ほそむら)敦斗(あつと)。うるさくて、お調子者でクラスのムードメーカー。

「敦斗! 今日の放課後なんだけどさ、ラーメン食べに行かない?」
「えー、どうしよっかな。なんて、うそうそ。久しぶりに行くかー!」
「敦斗、ラーメン行くのー? いいなー! 私も行きたい!」

 その隣を陣取るのが上羽(うえば)心春(こはる)。敦斗が男子のリーダーだとしたらこちらは女子のリーダーだ。クラスメイトたちはいつもどうすれば二人に話しかけられるか、観察し耳を澄ませていた。

「そういえば心春ちゃんって誕生日いつ?」
「私? 七月一日だよー。ちゃんと祝ってよ? なんちゃって」
「え、あったり前じゃん! 絶対祝うって」

 聞こえてくる会話に、美桜は心春の誕生日が自分の翌日であることを知る。周りは二ヶ月も先の誕生日に何を贈るかで大盛り上がりだ。ただ一人美桜を除いて。
 シラッとした視線を向けていた美桜は敦斗と目が合いそうになり慌てて逸らす。何か言われても面倒だ。鞄の中から取り出した小説を開くと、窓の外に視線を向けた。
 クラスに虐めがあるわけじゃない。ハブられているわけでもない。ただ美桜が一人でいたいだけ。あそこに自分の居場所はないと美桜は知っていた。そんなところにいていい人間ではない。自分には一人が合っている。それが自分に課せられた罰なのだと。だからあの人たちと関わり合うことなんてきっとないんだと、そう思っていた。

 
 今日も楽しくも面白くもない一日が終わった。高校に入って最初の中間テストが終わり開放感に溢れたB組では、このあと駅前のカラオケにクラスみんなで行こう、という話で盛り上がっていた。社交辞令がてら声をかけられるのも迷惑だし、かけられなくて行きたくないと思っていたにもかかわらずなんとなく微妙な気分で帰るのも嫌だ。それなら誰かが何かを言う前にいなくなればいい。美桜は盛り上がるクラスメイトを尻目に、音を立てないように足早に教室をあとにした。

「お、外崎。ちょうどいいところに」